魚のエネルギーと生命力に感じる凄み
ひと通り、調理法について解説したところで、素材の話に移る。奥田さんがどんな素材を使っているのか、実に興味深い。
素材で、もっとも熱く語っているのは、魚についてだ。鮮度はもちろん、魚から出ているエネルギーと生命力にすごさを感じるという。その魚が育ってきた人生観や修羅場の数、「オーラ」を感じ取れるかどうかが大事だとも。
魚料理で重要なのは活け締めをしているか、していないかだ。パリで店を開くにあたり、フランスで活け締めを広める活動を始めた。8年経った今では、フランスの港のあちこちから活け締めの魚や活魚の流通が行われている。
ニューヨークには、ほぼ毎日魚は日本から空輸されている。1日半待てば、豊洲にある魚のほとんどがニューヨークに届くという。値段は、豊洲の1.5倍が相場。パリよりもニューヨークの方が魚事情は恵まれていて、値段は高くなるが、日本と同じような料理が作れる状況にある。
日本料理において、「鮎」という食材は、特別なものだという。鮎が示す夏らしさは格別だからだ。究極の塩焼きの条件に、鮎が生きていること、炭で焼くこと、サイズが15~16センチであること、を挙げている。
生きた鮎に塩をふり、太陽光のような炭火の遠赤外線と、温風で乾かし続けることで、頭は唐揚げ、身は塩焼き、尻尾は干物のようになるのが、奥田流だ。そのため、5人の職人はひと月近く焼き方の特訓を続け、6月1日の解禁日に臨むという厳しさだ。
牛肉にかんしては、いろいろ試行錯誤を繰り返した結果、現在はランクでいえばBMS12の、通称「トビ」と言われる最上級の格付肉にこだわっている。というのも、ブランドの名前よりも一頭一頭の状態が大事。プロの卸業者の目利きを信用するのが一番だという結論に至ったという。
熟成がブームになっているが、鮮度のいい肉や魚を適切な調理法で食べるとおいしいことを知り、「固定観念が崩れた」と告白している。専門外の焼肉屋や中華料理店に行き、未知の料理に触れ、探究を続けている。
ちなみに、米や水、だしを取るための昆布、かつお節についても詳しく説明。日本料理にとって「だしは命」だと書いている。