年金の繰り下げ延長...何歳まで長生きすればトクか?
「週刊東洋経済」(2022年4月23日号)の特集は、「年金の新常識」。この4月から変わった年金制度を総まとめし、「長生きリスク」への対応を追求している。
モデル年金の金額を示している。夫婦で月22万円が今の標準だ。
内訳はこうだ。
夫が会社員で、老齢厚生年金が9万円、老齢基礎年金が6.5万円の計15.5万円。妻は専業主婦で老齢基礎年金が6.5万円。あくまで、モデルだから、これよりも多い人も少ない人もいるはずだ。
22年度から大きく変わったのは、「受給開始年齢の繰り下げ延長」だ。通常、年金を受け取る年齢は65歳が原則だ。ただし、本人が希望すれば、60~70歳の間で、もらう年齢を自由に選ぶことができる。それが今回の改正で、最長75歳まで延長された。
本来もらう65歳から動かすと、どうなるか。年金の受給を1か月繰り下げるごとに、金額が0.7%増える仕組みになっている。1年間繰り下げれば、8.4%増となる。
したがって、5年間繰り下げて、70歳から受給を開始すれば、42%増。10年間繰り下げ、75歳で受給を開始すれば、84%も増えることになる。反対に、受給を繰り上げれば、1か月ごとに0.4%減る。
繰り上げか繰り下げかを選択する根本的な要因は、「寿命」だ。寿命は誰も分からないが、受給開始年齢別の損益分岐点は計算できる。
たとえば、70歳で受給を開始する場合、81歳まで生きて年金をもらい続ければ、65歳受給開始を総額で追い抜く。75歳受給開始の場合は、86歳まで年金をもらえば、65歳開始を追い抜く。「およそ11年超が損得の分かれ目」と書いている。
男性の平均寿命は81.64歳、女性は87.74歳だが、これらは平均値である。男性の死亡者数のピーク(中央値)は89歳、女性は92歳だから、思いのほか遅い。長生きできる「自信」のある人は、年金の繰り下げを選んだ方がトク、と結論づけている。
しかし、実際に繰り下げ受給をした人は少ない。国民年金の場合、繰り下げ受給した人は1.5%、繰り上げ受給した人が12.4%。厚生年金では、繰り下げが0.9%、繰り上げが0.4%だ。貯えや健康状態、人生観の違いなど、どちらを選択するかは人それぞれだ。
2つ目の改正のポイントは、短時間労働者への厚生年金の適用拡大だ。パートも厚生年金を受け取れるケースが拡大したのだ。
すでに16年10月には、週20時間以上、賃金月8.8万円以上、勤務期間1年以上、501人以上の事業所、学生でないことをすべて満たす短時間労働者は、厚生年金(および健康保険)に加入できるようになった。
これが22年10月から、勤務期間は「2か月超」、事業所は「101人以上」へ、さらに24年10月からは「51人以上」へと引き下げられ、対象者が一気に拡大する。
3つ目の改正ポイントは、在職老齢年金の減額基準引き上げだ。
改正前の22年3月まで、60~64歳の人は給与と年金を合わせた合計額が月「28万円」を超えた場合、原則として、超えた額の2分の1に当たる年金が支給停止となっていた。これが改正後の22年4月からは、基準が月「47万円」へ拡大され、給与をもっと稼いでも年金を削られなくなる。
また、65歳以上で働きながら年金を受給すると、毎年、もらう厚生年金の額が増えていく「在職定時改定」が導入され、働いているうちは年金が毎年上積みされていく。
リタイヤ後の生き方をどう描くか、現役時代から考えておくことが大切だ。
(渡辺淳悦)