ウクライナ情勢にかこつけた参院選挙対策なのか?
一方、「そもそもこのタイミングで緊急経済対策が必要であるかは疑問だ」と指摘するのは、野村総合研究所エグゼクティブ・エコノミストの木内登英氏だ。
木内氏のリポート「緊急経済対策ではトリガー条項と補正予算が大きな争点に」(4月15日付)のなかで、いま緊急経済対策を行っても「経済効果は限られる」として、こう説明する。
「緊急経済対策のうち、最も多くの支出があてられ、経済効果も大きくなるのはコロナ禍で困窮する人への支援強化、だろう。そこで、5兆5000億円の予備費から仮に3兆円程度がこの生活困窮者への給付金にあてられると考えよう。内閣府の試算によれば、2009年の『定額給付金』では、給付金のうち25%程度が消費に回った。一時的な所得は、給与所得などと比べて消費に回る割合は小さくなるのである」
過去(2009年)の「定額給付金」のケースから推計すると、給付金の約4分の3が貯金に回ってしまう。結局、自民党案のように困窮世帯に一律1人10万円の給付金を支給しても、1年間の名目GDP(国内総生産)を0.13%押し上げる効果を持つだけだ。
また、緊急経済対策に含まれる可能性が高いガソリン補助金制度のGDP押し上げ効果は、プラス0.01%~0.03%と試算される。「両者を足し合わせても、その景気浮揚効果は限られよう」というわけだ。
木内氏が、いま緊急経済対策を行ってもあまり意味がないとしてあげる理由はほかに3つある。
(1)オミクロン株の拡大で今年1~3月期の実質GDPは前期比でマイナスに陥ったとみられるが、まん延防止等重点措置の解除を受けて、4~6月期にはプラス成長に戻る可能性が見込まれる。
(2)ウクライナ問題という予想外の事態が生じたが、物価高の問題はそれ以前から続いてきた。しかも原油価格は、コロナ問題を受けて昨年から上昇してきた幅と比較すると、ウクライナ問題で上昇した幅は決して大きくない。
(3)本来、生活困窮者への支援は、常設の社会保障制度の中で行われるべきで、一時的な給付金はあくまでも例外的な措置のはずなのに恒常化しているのではないか。常設の社会保障制度がセーフティーネットとして十分に機能していないのなら、その制度を見直すことを優先すべきだ。
そして、こう指摘している。
「これでは、ウクライナ情勢を機会として捉え、参院選挙を意識した経済対策を実施しようとしていると批判されても仕方ないのではないか」「いたずらに財政支出を拡大させ、財政環境を一段と悪化させないためには、せめて予備費の範囲内での経済対策にとどめて欲しいところだ」
(福田和郎)