長期金利の変動幅拡大のメリットとは
ガソリン対策の補助金などを使った物価支援では「痛み止めを飲むような一時的な効果しか見込めない」とするのは、第一生命経済研究所首席エコノミストの熊野英生氏だ。熊野氏のリポート「政府の物価対策の考え方~1回切りの財政支援では限界~」(4月15日付)のなかで、その理由をこう述べている。
「参議院選挙が7月にあるとしても、もっと長い期間を視野に入れた物価対策であったほうがよい。インフレは一時的ではなく継続的なものだからだ」
そして、賃上げが遅れている中小企業を対象に具体策を提案した。
「昨年(2021年)末に決めた賃上げ促進税制を拡充することは一案として考えられる。今、中小企業は仕入コストの上昇によって赤字転落の懸念を抱いている。現状、赤字企業には還付されないことになっている。だから、賃上げによって法人税が還付される仕組みを、たとえ赤字の場合であっても繰り越しで還付できるようにすればよい」
ちなみに、賃上げ促進税制とは今年4月から始まったものだ。従業員の給与支給額が前年度より一定程度多くなった企業が、法人税などの税額控除を受けることができる制度である。しかし、もともと中小企業の大半は赤字で、法人税を払っていないところが多いから、メリットに乏しいという問題点があった。
また、熊野氏はこう続ける。
「中小企業の賃上げを促進しようとすれば、赤字の不安を抱えている企業でも、減税効果を使えるようにすることが望ましい。最近のサービス業の状況をみると、人手不足がさらに深刻化している。まん延防止措置の解除後も、営業時間を21時から22時までしか延長しない飲食店も目に付いた。その理由を聞くと、従業員が集まらず、やむを得ず営業終了を早めているという」
もう1つ、熊野氏が起爆剤として提案するのは、長期金利の変動幅拡大だ。
「エコノミストのほとんどは、日銀が物価上昇を促して、政府が財政支出を増やして物価対策を打つのは矛盾していると思っている。(中略)一発で即効性がある対応は、日銀は長期金利の変動幅を0.25%から0.50%へと拡大することだ。円安ペースは間違いなく鈍る」
「長期金利上昇にはメリットがある。個人の資産運用の利回りを上げることだ。2022年度は、年金生活者への支給額が前年比マイナス0.4%も下がる。年金生活者は、年収以上の金融資産を保有する人が少なくない。例えば、個人向け国債の利回りが、0.4%程度まで上がっていくと、その運用益で年金不足をいくらかは穴埋めできる。資産を持っている高齢者には、1人5000円を配るよりも、運用益の恩恵が大きい人がいるかもしれない」
最近発行された個人向け国債145回債の利回りは0.13%しかないから、0.4%まで上がれば御の字だろう。