電動バイクや電動スクーターといった電動二輪車の電池が切れたら、コンビニやガソリンスタンドで充電された電池と交換して、そのまま走る――そんな時代がやってくる期待が高まっている。
バイクメーカー大手のホンダ、スズキ、ヤマハ発動機、カワサキモータースと石油元売り大手のENEOS(エネオス)ホールディングスは、電動二輪車(電動バイクや電動スクーター)の共通仕様バッテリーのシェアリングサービスとインフラ整備の専門会社「Gachaco(ガチャコ)」を2022年4月1日に設立した。
現時点で電動バイクや電動スクーターの普及は限られるが、普及の課題となる「長時間充電の面倒さ」と「外出時のバッテリー充電切れへの懸念」を解消するのが目的という。どんなサービスが始まるのか。今後、電動二輪車の普及は進むのだろうか。
今秋、ホンダのバッテリーパック脱着交換サービス開始
ガチャコはまず2022年秋を目途に、ホンダがすでに実用化している電動スクーター用のバッテリーパック「Honda Mobile Power Pack e:(ホンダ・モバイルパワーパック e:)」の脱着交換サービスを東京など大都市圏から始めるという。ガチャコとは文字通り、残量が少なくなったにバッテリーをガチャっとはずし、満充電のバッテリーと交換するサービスをイメージしているのだろう。
ホンダ・モバイルパワーパックは、脱着交換が可能なリチウムイオン電池だ。ホンダは2018年から国内外で実証実験を行い、この電池を搭載した電動スクーターを既に発売している。 最新の「ホンダ・モバイルパワーパック e:」は容量が1.3キロワット時(kWh)で重さが約10キログラム。ホンダによると、これは片手でも持ち運べる大きさと重さ。「二輪車への搭載性から体積を決め、航続距離から容量を決めた結果、重さが約10キロに落ちついた」(同社の開発エンジニア)という。
電池が脱着式の場合、電池残量が少なくなったら、自宅や充電スタンドで充電するのではなく、コンビニやガソリンスタンドなどに設置したバッテリー交換ステーションで、満充電の電池に交換する。
ホンダは、この電力を太陽光や風力など再生可能エネルギーで賄うことを想定しており、「充電時間や電池切れの心配をせずに再生可能エネルギーで走ることが可能になる」とアピールしている。
そもそも電動二輪車はどれくらい走れるのか?
では、実際の航続距離はどうか――。ホンダの電動ビジネススクーター「BENLY e: I(ベンリィ e: I)」の場合、「ホンダ・モバイルパワーパックe:」を2個搭載し、満充電で87キロ走るという。
ただし、この値は時速30キロの定地走行テスト値なので、注意が必要だ。これが時速60キロの定地走行テスト値となると、満充電当たりの航続距離は43キロとなる。メーカー希望小売り価格は36万3000円で、ガソリンエンジンのベンリィ110の28万6000円を上回る。
一方、ヤマハが現在発売している唯一の電動スクーター「E-Vino」は満充電当たりの航続距離が29キロ(時速30キロの定地走行テスト値)で、希望小売り価格は25万9600円。ヤマハは重さ6キロの脱着式リチウムイオン電池を採用し、とりはずして自宅で充電することを想定している。
残念ながら、現状の電動二輪車の実力は、この程度。このため、国内で最も電動バイクに注力するホンダでも、電動バイクは近距離を走る新聞配達用など、法人向け販売が中心となっている。 これ以上の航続距離を目指す電動バイクとしては、ヤマハが満充電で104キロ(時速60キロの定地走行テスト値)走る電動スクーター「E01(イーゼロワン)」を2022年3月に発表。7月から日本、欧州、アジアの各市場で市販に向けた実証実験を行うことになっている。
ヤマハはE01について「原付二種クラス(ガソリンエンジンなら125cc以下)のスクーターとして、通勤など短・中距離移動に適したコミューター」と説明する。
ただし、E01の電池は脱着式ではなく、車体への固定式だ。容量4.9kWhのリチウムイオン電池を搭載し、急速充電にも対応する。ヤマハはE01を「顧客ニーズの把握や周辺ビジネスの探求、新たな市場開拓などの実証実験用として、事業所、自治体、官公庁などに向けて導入する」と説明している。
日本では2022年7月から100台を月額2万円で3か月間、一般にもリースする予定で、5月9日から参加者を募ることになっている。果たして、これだけの費用を負担し、実証実験に参加するライダーがどれだけいるのだろうか。
現実の電動二輪車には航続距離にこのような制約があるためか、スズキとカワサキは、今のところ電動バイクを市販する動きがない。
バイクとスクーターの電動化への課題は?
国内のバイクメーカー4社は、2019年に小型の電動二輪車を念頭に、脱着交換式のバッテリーの規格を統一。そして、残量不足となったら、バッテリー交換ステーションで満充電のバッテリーと交換するシェアリングサービスを行うことで合意している。
今回、エネオスを交えた5社で専門会社を立ち上げたのは、このサービスの実現に向け一歩前進と言える。エネオスの全国のガソリンスタンド網は1万か所以上にのぼり、その一部を活用できるのは大きなメリットだ。
ただ、バッテリーを脱着交換して、シェアリングできる電動二輪車が、事実上、ホンダだけという現状は厳しい。今秋からのシェアリングサービスの利用者も、首都圏の新聞販売店の電動スクーターなど、一部の法人ユーザーに限られそうだ。
現状ではバイクとスクーターの電動化は解決すべき課題がまだ多い。(ジャーナリスト 岩城諒)