新型コロナウイルスの感染拡大の影響からテレワークの普及が進んだが、実際に取り入れてみて、働き手はどう感じたか。また、企業側が感じたメリットやデメリットは何か――。
テレワークに関する2つの調査結果が、そのあたりの実情を明らかにしている。ひとつは、エン・ジャパンが運営する総合求人サイト「エン転職」のユーザーを対象におこなった「コロナ禍のテレワーク」のアンケート結果。2022年4月13日の発表だ。
もうひとつが、帝国データバンクが2月14日に発表した「企業がテレワークで感じたメリット・デメリットに関するアンケート」の結果だ。
テレワークの評判とは?
約7割がテレワークに「満足している」
エン・ジャパンの調査は、「エン転職」のユーザーにインターネットでのアンケートで実施した(2022年2月24日~3月28日実施)。有効回答数は1万1605人。
それによると、テレワーク制度を使って働いたことがあるか聞いたところ、31%が「ある」だった。新型コロナウイルス感染拡大前の2019年に実施した同じ調査では3%が「ある」という回答だったことから、コロナ前と比較すると約10倍テレワークが広まった、ということになりそうだ。
テレワーク経験のある人には、現在も続けているかどうか聞くと、45%は「現在もテレワークを続けている」。エン・ジャパンは「半数以上が現在はテレワークを行なっていないことから、テレワークの定着には時間がかかることがうかがえます」と見ている。
では、テレワークで感じたメリットは何か――。調査結果によると、トップ3は「通勤ストレスがない」(86%)、「コロナウイルス感染などのリスクを減らせる」(78%)、「人間関係のストレスがない」(40%)と続いた=図表1参照。テレワークの満足度については、約7割が「満足している」(とても満足:36%、やや満足:36%)という。次のような声も寄せられている。
「通勤ストレスがない」
・会社まで片道1時間半かかっていたので、その時間を資格の勉強時間にあてられた。(24歳、女性)
・電車遅延や交通麻痺で業務に支障がでない。(27歳、女性)
・片道1.5時間のため、時間の節約となる。また、身体への負荷が軽減される。(43歳、男性)
「新型コロナウイルス感染などのリスクを減らせる」
・以前は通勤時に満員電車に乗っていましたが、テレワークの際は感染リスクを気にせずに過ごせるのがメリットです。(26歳、女性)
・満員電車の通勤がなくなったことことで感染リスクを抑えられ、祖母の介護に行けた。(38歳、男性)
・営業職のため移動が多かったが、テレワークになり感染拡大を少しは防止できたと思う。(44歳、女性)
「人間関係のストレスがない」
・人間関係が1番ストレスだったが、そのストレスが無くなり、生産性が上がった。(27歳、女性)
・Excelの使い方など、自分で調べればわかる事を質問される事が多く業務に支障がでていた。テレワークでそれが減り、自分の仕事に集中できるようになった。(31歳、女性)
・毎朝の営業会議が、対面よりストレスを感じない。予定外の仕事をほとんど頼まれない。(41歳、男性)
また今後、テレワークで働きたいと思うか?(働いたことがある人は、引き続き働きたいと思うか?)についても聞いた。それによると、67%が「思う」と回答。一方で、ネガティブな「思わない」が13%、「わからない」が20%となっている。その理由には、
56%「仕事とプライベートをハッキリ分けられるか不安なため」
34%「会社にいる時と同じ成果をテレワークで出せるか不安なため」
28%「社内の情報やノウハウを確認しにくくなるため」
26%「長時間労働などの時間管理が不安なため」
などが上位になっている=図表2参照。次のようなコメントも寄せられた。
・家でZoomを使って仕事をしたことがあるが、気が緩んで全然捗らなかったため。(34歳、女性)
・自宅の環境整備が確実に整う訳では無い点と、音声のやり取りがしづらいため。(23歳、男性)
・社内がペーパーレス化が出来ておらず、捺印や印刷が必要な書類が多いため。(31歳、女性)
・新卒入社でテレワークだったので、先輩社員、同期とのコミュニケーション取りづらく、軽い質問などができないので困っている。(23歳、女性)
・チャットツールを使ってのやり取りでしたが、口頭で確認したほうが早いし確実だと思うことが多かったです。誤解や読み飛ばしも多くミスに繋がりやすいと感じました。(42歳、女性)
ちなみに、テレワークができることは、転職先を選ぶうえで影響するかどうかについての質問には、40%が「影響する」、同率で「どちらでもない」(40%)となった。
デメリットは「社内コミュニケーションが減少する、意思疎通が困難」
帝国データバンクの調査「企業がテレワークで感じたメリット・デメリット」は、有効回答企業数1837社で、2022年2月4日~8日に行われた。
それによると、企業のテレワーク実施状況は、「実施していない」が61.5%、「実施している」が31.5%だが、詳しく見ると「テレワークを実施:デメリットのほうが多い」が16.4%、「テレワークを実施:メリットのほうが多い」が15.1%だった。
企業にとって、テレワークの実施は、微々たる差ではあるものの、デメリットが上回ったかっこうだ=図表3参照。
テレワークを実施している企業について、規模別にみると、大企業は46.0%、中小企業は29.1%、うち小規模企業は19.8%と、規模が小さくなるほどテレワークの実施率が低い傾向にある。
帝国データバンクの調査では、「テレワークでメリットが多いと答えた企業」にはメリットを、「テレワークでデメリットが多いと答えた企業」にはデメリットをそれぞれ聞いた。
これを見ると、メリットは「通勤時間や移動時間を有効活用できる」(35.7%)、「新型コロナの感染を防げる」(15.2%)、「ワークライフバランスを実現できる」(13.0%)。一方、デメリットは「社内コミュニケーションが減少する、意思疎通が困難」(26.6%)、「できる業務が限られる」(19.3%)、「進捗や成果が把握しにくい」(14.6%)など、コミュニケーションにかかわる課題が挙がっている=図表4参照。
ほかに、調査に寄せられた声を見ると――。
メリット
・「安心・安全に仕事を行うことができる。仕事の進捗についても問題はない。通勤時間がないため、気持ちにゆとりができる」(サービス)
・「通勤時間の有効活用、ワークライフバランスの向上、雪の日などは交通事故のリスクアセスメントにつながる」(建設)
・「通勤時間の有効活用。通勤手当の削減。テレワークでの時間集中により業務効率アップ」(運輸・倉庫)
デメリット
・「社内コミュニケーションの減少、生産性が向上しているのか把握できない」(不動産、東京都)
・「顧客との関係では、細かな打合せがしにくいし、先方からも直接会っての打合せを希望される」(サービス)
・「従業員に適切な教育が施せない。プロジェクトチーム内のコミュニケーションに齟齬が起きる。また、臨機応変、綿密な顧客対応が行いにくい」(サービス)
・「仕事の進捗が把握できない・可能な業務に限界がある」(製造)
そして、帝国データバンクは、こう結んでいる。
「テレワークを実施しながらも、デメリットのほうが多いと感じている企業は半数を超えていました。特に社内でのコミュニケーションの減少による影響を懸念している声が多くあがったほか、そもそもテレワークができる業務が限られている点や仕事の進捗を把握しにくい点もデメリットとしてあげられています。
近年は災害の多発に加え、感染症の流行など、企業が活動を継続するうえで脅威となるリスクが多くあります。テレワークはそうした非常時に企業が事業を継続できるようにする一つのツールとなるでしょう」