状況判断誤った日本政府...ロシア産石炭の「即時禁輸」踏み込めない裏事情とは

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「ロシアは民間人の殺害など重大な国際人道法違反を繰り返してきた。断じて許されない戦争犯罪だ。ロシアによる非道な行為の責任を厳しく問うていかなければならない」

   岸田文雄首相は2022年4月8日夜に記者会見し、ウクライナに侵攻したロシアの行為をこう断罪したうえで、追加経済制裁の発動を表明した。

   その柱は、ロシア産石炭の段階的な輸入縮小。岸田首相は会見で「ロシアからの石炭の輸入を禁止する」と啖呵を切ってみせたが、そう簡単に禁輸措置に踏み切れないのが実情だ。

  • ロシア産石炭の禁輸方針が決まり、代替先探しも加速(写真はイメージ)
    ロシア産石炭の禁輸方針が決まり、代替先探しも加速(写真はイメージ)
  • ロシア産石炭の禁輸方針が決まり、代替先探しも加速(写真はイメージ)

ロシアへのエネルギー分野制裁に慎重だった日本

   そもそも日本は一貫して、ロシアに対するエネルギー分野の制裁には慎重だった。ウクライナ危機の長期化で原油など資源価格の高騰が続く中、制裁強化に踏み切れば、原油などの調達が一層、厳しくなる恐れもあるためだ。

   政府内では「日本が輸入を取りやめても、中国など他の国が買うだけだ。エネルギー制裁に意味はない」など、エネルギー分野の制裁で先行する米国と一線を引くべきだとの声が支配的だった。

   しかし、この読みは甘かった。ウクライナで多数の民間人殺害が明らかになったことで、日本は次第に「逃げ道」を塞がれていった。

   米国に続き、エネルギーのロシア依存が高い欧州連合(EU)までがロシア産石炭の禁輸に舵を切った。

   並行して先進7か国(G7)でも対ロ制裁で強硬姿勢を示すべきだとの声が加速。G7が4月7日に発表した緊急の首脳声明には、米欧の声を反映して、「ロシアからの石炭輸入のフェーズアウトや禁止を含む、エネルギー面でのロシア依存を軽減するための計画を速やかに進める」との一文が盛り込まれた。

   ある日本政府関係者は「『フェーズアウト』の言葉を入れたことで、石炭の即時禁輸を避け、段階的な縮小にとどめることに成功した。しかし、G7の協調を示すためにも、日本も今回はエネルギー分野の制裁強化という流れに乗るしかなかった」と打ち明ける。

   日本は発電用燃料に使う石炭の1割強をロシア産に依存している。代替の輸入先を探すのは容易ではない。

   8日の記者会見で「輸入を禁止します」と宣言した岸田首相も、禁輸の具体的な時期や手法を問われると、「それぞれの分野や業界において適切な対応をし、そして最終的には禁輸に持っていきたい」とはぐらかすしかなかった。

G7声明で急きょ、「段階的な縮小」の具体策作り

   日本が後手の対応に追い込まれた背景には、日本政府の準備不足がある。関係者を取材すると、政府は直前まで、石炭などエネルギー分野の制裁強化を回避できると考えていた節がある。ある政府要人は、EUの石炭禁輸方針が明らかになると、「日本とEUとでは事情が違う。同調することはない」と周囲に明言していたほどだ。

   それがG7声明で急きょ、「段階的な縮小」に向けた具体策作りを迫られた。萩生田光一経産相は4月8日の閣議後会見で、「できる限り産業にご迷惑かけないような方向の中で、制裁に協力していきたい」としたが、輸入縮小、そして最終的なゴールである禁輸に向けたスケジュールは描けていないのが実情だ。

   すでに欧州などはロシア産石炭の禁輸を見越し、代替先探しを加速している。岸田首相も「早急に代替策を確保する」としているが、出遅れた感は否めない。

   代替先探しが難航すれば、その弊害は日本経済のあらゆる場面に及ぶ恐れがある。岸田政権が甘い見通しで判断を誤ったことのツケが、今後、日本にのしかかってくる可能性がある。

(ジャーナリスト 白井俊郎)

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