近頃、「100均マニア」と呼ばれる人が増えている。何を買うにもまず「100円ショップをのぞいてから」という人のことだ。
そんな「100均マニア」に嬉しいリポートが届いた。帝国データバンクが2022年4月2日に発表した「『100円ショップ』業界動向調査」という報告書だ。見出しには、「好調『100均』市場規模1兆円へ 大手4社の店舗はコロナ前から800店増加」とあり、順調に業績を伸ばしているようだ。
ところがどっこい、円安と原油高のダブルパンチを受け、瀬戸際に追い込まれているという。「100均マニア」としては気が気でないだろう。調査をまとめた担当者に話を聞いた。
100円商品だけでは「いくら売っても儲けにならない」
<「100円ショップ」は生き残れるか! 円安で東南アジア仕入れ先「黄色信号」、無印・ドラッグストアとの激しい競争(1)>の続きです。
――300円、500円を中心に独自デザインを開発したミドル・ハイプライスブランドを取りそろえた店舗出店が進んでいますね。業界最大手のダイソーが昨年3月、300円ショップの専門店を東京・渋谷にオープン、今年4月には東京・銀座と大阪・梅田に店を出すと報じられています。
飯島大介さん「そうせざるを得ない流れがあるのです。100円で売っている品々の多くは、たとえばプラスチック製品や木工品などは、正直、いくら売っても儲けになりません。原材料の石油や木材の価格が上がっていますが、価格を上げたくてもあげられず、ほとんど利益が出ていない。それでもショップにたくさん並べてあるのは、集客効果を狙ってのことです。
追い詰められているのです。勝負は300円、500円クラスの商品にあり、そこから利益を補わないといけない。しかし、300円、500円の価格帯になると、無印良品やドラッグストアなどとの競争になり、相当なチャレンジになります」
――100円ショップには、円安や原油高などの影響は、ほかにどういうかたちで出ていますか。
飯島さん「100円ショップの仕入れ先は、中国や東南アジアが大半です。これまでは日本の立場からみると、東南アジアは『下請け』という認識でしたが、立場が変わりました。
円が安くなったため、東南アジアの仕入れ先だった企業は、もっと高い値段で買ってくれる欧米諸国や、ほかの豊かなアジアの国々、たとえば人口が多くて経済も発展しているインドネシアやマレーシアなどに売り始めています。
取引がドルベースですから、円安は痛いです。これまでよりもっとお金を出さないと売ってくれない。日本は東南アジアの企業から見放されつつあるといえそうです」
――また、イオンが昨年11月、100円ショップ第3位のキャンドゥを買収して傘下に入れました。これで100円ショップ業界の再編が進むのでしょうか。
飯島さん「4社の寡占がガチガチに固まっていますから、再編はないと思います。ただ、キャンドゥにとってはイオンの国際的なサプライチェーンに入ることで、海外からの仕入れがしやすくなります。また、商品開発のノウハウをイオンから学べるメリットがあります。イオンも安い商品をキャンドゥから得られるし、キャンドゥの店舗が増えれば、集客効果につなげられます」
――100円ショップの将来は厳しい、ということですか。
飯島さん「いや、2つの側面を区別してみることが大事です。たしかに、仕入れの面では円安と原油高が厳しく、経費が増えている。しかし、販売の面ではお客の数と売上が伸びており、好調が続いている。問題は、売上からどうやって利益を生み出すか、です。 100円ショップは『100円』という大看板を降ろすと、お客が離れてしまいます。だから、たとえば100円だったハサミの機能をアップして、200円にするとか、細かく区分けしたりする努力と工夫を重ねています。今は正念場の時期だといえます」
「つい入って、つい長居して、つい買ってしまう」
はたして、このような「苦労」を100円ショップの利用者は知っているのだろうか。東京商工リサーチのリポート記事についたヤフーニュースのヤフコメ欄にはこんな意見が相次いだ。まず、何を買うにもまず「100均」をのぞくという人が非常に多かった。
「つい入って、つい長居して、つい買ってしまう100均。以前はうろうろと見ているうちに必要でないものもホイホイとカゴに入れて1000円分ほど買ってしまうこともありました。100均で買ってよかったもの・失敗したものなどの記事も時々出るので最近では参考にして買い物しています」
「文房具はもちろん、生活雑貨なんかも非常に多くの種類があって、これに慣れてしまったから一般の店で売っている商品が非常に高く感じる。かつては安かろう、悪かろう、だったが、一般の店で売っているものと大して変わらない商品の割合が増えたし、むしろ今まで『一般の店で売っているほうが品質は高い』と思っていたものが、実はそうではなかったのかもしれないと気付いた。(中略)もう一般の店で何倍も出して買うことができなくなった人も多いのでは」
100円ショップの利用法としてはこんなアドバスの数々が。
「何か必要になったときに、とりあえず100均にあるかなと思うようになった。店の規模によって品揃えが違うけど、ネットでみれば商品自体が発売しているかはわかるし、使った人のレビューをブログやYouTubeに上げている人もいる。それを見て品定めしやすい。専門店(中略)とかで売っている商品は気軽に試しにくい価格だけど、100均だと失敗してもまぁいいかって思うので、最初のお試しとして使ってみるにはいい」
「接着剤なんかは少量でいいから100円のものを買う。紫外線硬化レジンなんかもダイソーにあった。(でも)梱包テープはよく切れるから...」
100円ショップは地方のスーパーや商店を追いやる?
もう少し寄せられたコメントを見ていくと、いつも利用するがゆえに100円ショップに対する「注文」も少なくない。
「商品に求める機能性や耐久性を評価の尺度とする場合、100円では高い物も多い。ホームセンターで売っている500円のツールケースは、10年使ってもビクともしないが、100円ショップの品はプラの耐候性が極めて低く、半年と待たずに割れる。(中略)先日プラ製のズボンハンガーを買おうと思い、レジに持っていく最中にうっかり落としてしまったのだが、一発でハサミの稼働部が割れてしまい弁償した」
「100円ショップがよいものを置いてあるスーパーや商店を駆除してしまう、ということ(は問題だ)。都市部では買う店が多数あり、店を選べて共存可能なのでしょうが、地方だと文房具屋さんや雑貨屋さんがなくなって近所に100均があるけど、欲しいものは電車に乗らないと買えなくなってしまったという場合があります」
最後に、100円ショップの将来についてこんな意見を紹介したい。
「原材料費が高騰しているので100円を維持するのは結構きついと思う。そのうち150円ショップあたりになるのだと思いますね。商品の品質はよいものもあれば(そうでないものもあり)、見きわめる必要がある。無印やニトリの半分や5分の1、10分の1の価格で用を足せるものもあり、やはり魅力的な商品が多いと思います。300円ショップは気軽にぽんぽん買えないので、どっちのお店が繁盛するのか、棲み分けていくのか、これから2年くらいは注目です」
(福田和郎)