一人でも多くの人救いたい...固定観念とらわれないアイデアで小型化!「陽子線がん治療装置」開発秘話(後編) ビードットメディカル社長の古川卓司さんに聞く

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この巨大な装置をどうしたら小型化できるか?

――なるほど、陽子線治療を受けるには、費用面の課題と、巨大な装置の課題があるわけですね。そして、こうした課題に応えるのが、ビードットメディカルの「超小型陽子線がん治療装置」ですね。

古川さん「おっしゃるとおりです。最大の特長が、装置を小型化させたことです。
   というか、私が大学生だった頃から、装置の小型化は課題でした。これまでは回転させる装置(『回転ガントリー』)をいかに小さくするかで、各メーカーがしのぎを削っていました。たしかにそれで少しずつ小さくなっていったのですが、量子線治療を普及させていくには、もっと突き抜けて小型化させる必要がある、と私は考えていました。できれば、『X線治療』の装置に置き換わるくらいの小ささが理想です。
   こうした状況のなか、私が『もしかしたら』と思ったのは、機械そのものは回転しないけれど、いろんな方向から陽子線を照射させたらどうか、ということでした。この『非回転ガントリー』のアイデアを盛り込んだのが、弊社の『超小型陽子線がん治療装置』。超伝導電磁石の技術を活用して、ビーム角度を自在に変えることができ、さまざまな方向から照射させることに成功しました。つまり、野球の変化球のように陽子線を曲げながら、ピンポイントに照射させることができるのです。これにより、従来の装置に比べて、高さは3分の1、重さは10分の1の小型化を実現しています」
高精度な照射技術を備えるビードットメディカルの「超小型陽子線がん治療装置」
高精度な照射技術を備えるビードットメディカルの「超小型陽子線がん治療装置」

――この装置のコスト面については、いかがでしょうか。

古川さん「導入費用は20億円で、従来の設備(50~100億円)と比べると大幅なコストダウンになると思います。とはいえ、まだまだ病院側が気軽に導入するには高額ですね。このあたりは当然、まだ改良の余地があるでしょう。
   この装置は現在、医療機器としての薬機法承認取得に向けて、データ収集や資料作成などを進めているところです。このまま順調にいけば、2022年秋には取得でき、一般販売に向けた動きがさらに進むと思います。今後、日本国内はもちろん、放射線治療の割合が多いアメリカ、人口が多い中国それぞれの市場を視野に入れ、販売活動をしていきたい。もっとも、足元の課題として、量産化をどうするかも考えていきたいと思います」

――陽子線治療の普及に向けて、どのような将来の展望を描いていますか。

古川さん「私たちがスローガンとして掲げているのは、『PROTON for everyone―陽子線がん治療を世界中に』です。陽子線治療はX線治療と比べて照射期間の短縮につながります。それにより、患者さんの負担が、時間的にも経済的にも軽くなるのではないかと考えています。
   そのためにも、中長期的な課題は、機械のさらなるサイズダウンです。私たちはとにもかくにも、小型化、小型化、小型化を目指して開発を進めています。技術的なブレークスルーが必要でしょうが、究極的にはがんの日帰り治療ができる世界に――そんな夢も描いています。私たちの装置を通じて長きにわたって、患者さんに寄り添う存在であり続けたいと思っています」

――ありがとうございました。

(聞き手 牛田肇)



【プロフィール】
古川 卓司(ふるかわ・たくじ)

ビードットメディカル代表取締役社長
博士(理学)
立教大学 理学研究科 客員教授

2004年に千葉大学大学院 博士(理学)を飛び級で取得し、同年放射線医学総合研究所(放医研)に研究員として着任。その後、2011年に放医研の先進粒子線治療システム開発のグループリーダーとして手腕を発揮し、2017年にビードットメディカルを設立した。がん治療装置の開発歴は20年に及ぶ。これまでの研究分野での受賞歴には、加速器学会奨励賞(2005年)、医学物理学会大会長賞(2010年)、文部科学大臣表彰科学技術賞(2012年)など。また、ベンチャービジネス分野での受賞歴では、Japan Venture Awards中小機構理事長賞(2021年)、ブランド・知的財産ビジネスプランコンテスト、グランプリ(2022年)がある。

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