円安は、競争力落ちた日本に、市場がはかせてくれた「ゲタ」のようなもの
さて、市川氏と同様に「円安は良い面と悪い面がある」ことは認めるものの、現在の経済状況では「円安の評判が悪くなっても仕方がない面がある」と指摘するのは、みずほリサーチ&テクノロジーズのエグゼクティブ・エコノミスト門間一夫氏だ。
門間氏のリポート「『悪い円安』をどう受け止める」(44月7日付)のなかで、「円安の評判が悪い」理由を3つ説明する。
(1)ただでさえ国際商品市況が高騰している折、円安はコスト高に拍車をかける。たとえば、2月の輸入物価は、契約通貨ベースで前年比プラス25.7%だが、円ベースでみると前年比プラス34.0%。その分がコストに跳ね返る。
(2)円安がインバウンドに与えるメリットを、コロナ禍によって海外旅行客を規制されている現在、活かすことができない。今の1ドル120円台の相場では、外国人には日本の物価が4割も安く感じられるはずだが、ただただ不幸と言うほかはない。
そして、門間氏が「円安」が評判を悪くしている最大の要因と見ているのがこれだ。
(3)円安の分配効果は、多くの国民が「望ましくない」と感じる方向に働く。円安のメリットはグローバル企業に集中し、デメリットは中小企業や家計に広く及ぶ。「成長と分配の好循環」という時の「分配」に、円安は逆行するからだ。「数」で言えば、円安で得をする人より損をする人の方が多い。
そして、こう説明をする。
「コロナ禍で打撃を受けたサービス業がコスト高の追撃を受け、コロナ禍でも業績を伸ばせた製造業が円安の追い風を受ける。それでも、グローバル企業にもたらされる恩恵が、賃上げを通じて家計に広く波及するならよい」
「しかし、(中略)現局面は世界経済の不透明感が強く、その面ではグローバル企業自身も厳しい。円安の恩恵が広く波及することは期待しにくい」
では、どうすればよいのか。
門間氏は「金融政策にできることはない」とした。日本の経済の実力が落ち込んでいることから、長期的に再生を図ることが重要だとして、こう提案する。
「日本の競争力を強化するための長期的な視点からの政策である。今の円安は、競争力の低下した日本に市場がはかせてくれた『ゲタ』のようなものであり、下手なゴルファーのハンディと同じである。ハンディ自体を『悪いハンディ』などと言ってもしかたがなく、ハンディを減らしたければ実力を磨くしかない」
そして、具体的にはこんな政策をあげた。
「日本には(中略)必死に対応すべき長期的な課題がある。グリーン政策の強化、高齢化による人手不足への対応、老朽インフラの再整備などである。そのために必要な技術革新を基礎研究も含めて政策的に強化し、民間の化学反応に期待しながら日本独自の産業再生を図ることは、競争力の強化につながりうる筋の良い方向性ではないかと思う」
いずれにしろ、大事なことは長期的な視野に立った「ニッポン再生」である。目先の政府による「円買いドル売り介入」など問題外という点では、エコノミストたちの意見は一致しているようだ。
(福田和郎)