コロナ禍の中で拡大したテレワーク。生活時間の配分が変わったことを実感する人が多いのではないか。
そんななか、なんと、「ゆとり時間」を満喫する「独身男性」が増えているのに、逆に「独身女性」の残業時間が伸びているという調査結果がまとまった。
ニッセイ基礎研究所が2022年3月23日に発表した「テレワークをするようになって、残業時間が伸びた独身女性、時間のゆとりができた独身男性」というリポートがそれだ。
いったい独身の男女、そして既婚の男女に何が起こっているのか。調査を行った女性研究員に話を聞いた。
「既婚女性」は浮いたお化粧時間を家事に充てる
<テレワークの謎!「独身女性」は残業時間伸び、「独身男性」はゆとり満喫か...いったいなぜ?! 調査した女性研究者に聞くと...(1)>の続きです。
J-CASTニュース会社ウォッチ編集部では、リポートをまとめたニッセイ基礎研究所保険研究部准主任研究員の岩﨑敬子さんにあらためて話を聞いた。
――このリポートでは、独身・既婚別の違いにまで広げて調べていることが非常にユニークです。何か狙いがあったのでしょうか。
岩﨑敬子さん「テレワークで、いったい誰が、どのくらい残業時間が減ったのか、時間的なゆとりが出てきたのかと、探索的な興味がありました。その中で、独身・既婚別にも調べてみたのですが、独身か既婚か、また男性か女性かで、こうした違いが出てくることは予想していませんでした。とくに、独身女性の残業時間が増えているという結果が出たことは驚きました」
――その「独身女性」ですが、テレワークになった独身女性だけが残業時間が増えている理由として、「テレワークで削減された身支度の時間が残業時間に充てられた可能性」をあげていますね。
しかし、それならば「既婚女性」も、女性特有のお化粧などの身支度の時間が短くなる点では、独身女性と同じと思われます。既婚女性はその空いた分の時間をどう使っていたのでしょうか。
岩﨑さん「これはあくまで私の推測ですが、既婚女性は空いた分の時間を、家の中で会社の仕事をすることより、家事や育児に使っている可能性があります。
空いた時間をどのように使うかという問題について、先行研究では、女性は結婚すると家事時間が増えることや、夫婦の家事分担割合はほとんどの場合女性のほうが大きいことが報告されています。そのため、家事や育児を担う役割が大きい既婚女性は、テレワークでできた時間を、その充足に充てたのかもしれません」
テレワークできる「独身男性」は大企業社員に多い傾向
――なるほど。しかし、同じ独身でも男性の場合は、残業時間が減ったうえ、時間的なゆとりを感じる人の割合が、ほかの人々より突出して高いという結果が出ました。
その理由について、リポートではとくに説明せずに、「テレワークになった独身男性と、ならなかった独身男性はもともと異なるトレンドを持っていた可能性に注意が必要」と指摘していますが、どういうことでしょうか。
岩﨑さん「テレワークになった独身男性が、そのおかげで急に時間的なゆとりを感じる割合が増えているのかどうかはわかりません。テレワークになった人と、なっていない人の間の『もともとのトレンドの違い』に注目する必要があります。というのは、テレワークになった男性は大企業に勤める人が多い一方、テレワークにならなかった男性は中小企業に勤める人が多い傾向があります。
柔軟な働き方の取り入れが進む大企業では、もともとコロナ禍によってテレワーク拡大が進む前から、時間的なゆとりが高まるトレンドがあった可能性も考えられます。だから、この結果だけを見て断じるのは早計です。コロナ禍以前・以降のデータも含めて、もっと長いレンジで分析する必要があります。
ほかにも、テレワークになった企業では、テレワークだけではなく、さまざまな別の感染予防対策を行っていることが予想されます。そうした別の要因の影響も考えられるため、コロナ禍での対策の影響を今後、多面的に検証していく必要があるでしょう」
「既婚男性」のテレワークが「ゆとり」につながらない理由
――たしかに大企業では働き方改革が進んでいるし、コンプライアンスが厳しくてあまり残業させないようにしていますから、テレワークできる独身男性はもともと時間的にゆとりが増加してきていた流れがあったのかもしれませんね。
しかし、テレワークになった既婚男性は、時間的なゆとりを感じる割合が増えるどころか、横ばい状態なのはどういうわけでしょうか。テレワークができるのは大企業の人が多いという前提条件では、既婚男性は独身男性と同じはずです。
岩﨑さん「それは、既婚女性がテレワークで空いた身支度の時間を家事や育児に使っているかもしれないという構図と同じだと思われます。既婚男性は通勤がいらなくなってできた時間を家事や育児に使うことで、『ゆとり』にはつながらなかった可能性が考えられます。
テレワークになって家にいる時間が伸びることで、普段は家事をあまりしていなかった人が家事をするようになるといったこともあるかもしれません」
――なるほど。私も「既婚男性」かつ「テレワーク」なので、非常によくわかる説明ですね。
岩﨑さん「既婚男性の場合は、テレワークをしても、しなくても、時間的なゆとりを感じる人の割合に変化がみられないのが特徴です。つまり、テレワークがゆとりにつながっていないのですね。一方、女性の場合はテレワークをしても、しなくても、独身、既婚を問わず、時間的なゆとりを感じる人の割合が増加しています。
この理由は今後の検討課題ですが、感染予防のために休みの日を家で過ごす時間が増えたことや、宅配サービスの充実など生活が便利になっているといったことの影響が考えられるかもしれません」
――とても丁寧に説明していただき、ありがとうございました。
(福田和郎)
【プロフィール】
岩﨑敬子(いわさき・けいこ)
ニッセイ基礎研究所保険研究部准主任研究員(応用ミクロ計量経済学・行動経済学専門)
2010年、三井住友銀行入行。2015年、独立行政法人・日本学術振興会特別研究員。2018年、ニッセイ基礎研究所研究員。2021年7月より現職。
行動経済学をはじめ、公衆衛生学、社会学、人類学などさまざまな分野の視点を取り入れた実証研究を行っており、災害時の社会的なセーフティーネットの形成や、人々の幸福感の向上につながる政策的課題の発信を目指している。