「既婚男性」のテレワークが「ゆとり」につながらない理由
――たしかに大企業では働き方改革が進んでいるし、コンプライアンスが厳しくてあまり残業させないようにしていますから、テレワークできる独身男性はもともと時間的にゆとりが増加してきていた流れがあったのかもしれませんね。
しかし、テレワークになった既婚男性は、時間的なゆとりを感じる割合が増えるどころか、横ばい状態なのはどういうわけでしょうか。テレワークができるのは大企業の人が多いという前提条件では、既婚男性は独身男性と同じはずです。
岩﨑さん「それは、既婚女性がテレワークで空いた身支度の時間を家事や育児に使っているかもしれないという構図と同じだと思われます。既婚男性は通勤がいらなくなってできた時間を家事や育児に使うことで、『ゆとり』にはつながらなかった可能性が考えられます。
テレワークになって家にいる時間が伸びることで、普段は家事をあまりしていなかった人が家事をするようになるといったこともあるかもしれません」
――なるほど。私も「既婚男性」かつ「テレワーク」なので、非常によくわかる説明ですね。
岩﨑さん「既婚男性の場合は、テレワークをしても、しなくても、時間的なゆとりを感じる人の割合に変化がみられないのが特徴です。つまり、テレワークがゆとりにつながっていないのですね。一方、女性の場合はテレワークをしても、しなくても、独身、既婚を問わず、時間的なゆとりを感じる人の割合が増加しています。
この理由は今後の検討課題ですが、感染予防のために休みの日を家で過ごす時間が増えたことや、宅配サービスの充実など生活が便利になっているといったことの影響が考えられるかもしれません」
――とても丁寧に説明していただき、ありがとうございました。
(福田和郎)
【プロフィール】
岩﨑敬子(いわさき・けいこ)
ニッセイ基礎研究所保険研究部准主任研究員(応用ミクロ計量経済学・行動経済学専門)
2010年、三井住友銀行入行。2015年、独立行政法人・日本学術振興会特別研究員。2018年、ニッセイ基礎研究所研究員。2021年7月より現職。
行動経済学をはじめ、公衆衛生学、社会学、人類学などさまざまな分野の視点を取り入れた実証研究を行っており、災害時の社会的なセーフティーネットの形成や、人々の幸福感の向上につながる政策的課題の発信を目指している。