コロナ禍の中で拡大したテレワーク。生活時間の配分が変わったことを実感する人が多いのではないか。
そんななか、なんと、「ゆとり時間」を満喫する「独身男性」が増えているのに、逆に「独身女性」の残業時間が伸びているという調査結果がまとまった。
ニッセイ基礎研究所が2022年3月23日に発表した「テレワークをするようになって、残業時間が伸びた独身女性、時間のゆとりができた独身男性」というリポートがそれだ。
いったい独身の男女、そして既婚の男女に何が起こっているのか。調査を行った女性研究員に話を聞いた。
独身女性は浮いた「お化粧」時間を残業に充てている!?
リポートをまとめたのは、ニッセイ基礎研究所保険研究部准主任研究員の岩﨑敬子さんだ。全国の18歳~64歳の男女約6000人を対象に、2019年から2021年にかけ、テレワークの拡大によって残業時間がどう変わったか。また、時間的なゆとりを感じるようになった人が増えたかどうかなどを調査し、その傾向を分析した。
岩﨑さんの調査でユニークな点は、対象者を性別・年齢だけでなく、「独身男性」「独身女性」「既婚男性」「既婚女性」と4つのカテゴリーに分け、結婚しているかどうかにも着目して分析したことだ。すると、非常に興味深い結果が出た。
とりわけ、2020年~2021年の期間に、「テレワークになった人」と「ならなかった人」を比較するために、ひと月あたりの残業時間の平均の変化をみた結果が面白い。
まず、4つのカテゴリーのうち、「独身男性」「既婚男性」「既婚女性」については、テレワークの有無にかかわらず、ひと月あたりの残業時間の平均値は低下していた。ところが、「独身女性」に限っては、「テレワークにならなかった人」の残業時間の平均値が低下したのに、「テレワークになった人」の残業時間の平均値だけが高まったのだ=図表1参照。
しかし、この調査では「残業しなかった人」も含まれてしまう。そこで岩﨑さんは、残業をひと月1時間以上した人に限って、あらためてひと月あたりの残業時間の平均の変化を調べてみると、さらに面白い結果が出た。
それによると、「独身男性」と「既婚男性」は、テレワークになったかどうかにかかわらず、残業時間の平均値が下がっている。一方、「独身女性」と「既婚女性」は、「テレワークにならなかった人」の残業時間の平均値は低下したのに、「テレワークになった人」の平均値が高まった。
とくに「独身女性」ではその傾向が、平均15時間から21時間に上昇するなど顕著にみられた=図表2参照。なぜ、「独身女性」がテレワークをすると、残業時間が増える傾向があるのだろうか。
これは、彼女たちが自宅でテレワークをすることによって、家事の負担が変わるといった、「独身女性」特有の何らかの深い事情があるのだろうか。
そこで岩﨑さんは、テレワークで残業を行うようになった「独身女性」の家事の時間や、時間的なゆとりの感じ方に変化があるかどうかを分析した。しかし、家事・育児の時間や、時間的なゆとりを感じる人が少なくなる傾向は、確認されなかったのだ。
つまり、増えた残業時間は、家事・育児の時間や、時間的なゆとりを削って配分されたものではないということだ。岩﨑さんはリポートで「テレワークによって削減された通勤時間や身支度の時間が(仕事に)充てられている可能性が示唆される」と説明している。
お化粧などに費やしていた時間を、自宅の仕事に使うようになったということだろうか? これはのちほど岩﨑さんに聞かなくてはならない。
「独身男性」に「ゆとり」が多い謎
リポートではさらに深堀して、テレワークは時間的なゆとりの感じ方にも影響を与えているかどうかも調べている。図表3は、4つのカテゴリー別に、時間的なゆとりを感じる人の割合の変化を示したものだ。ここでは「独身男性」に注目したい。
「独身男性」ではテレワークの有無にかかわらず、時間的なゆとりを感じる人の割合は増えているが、テレワークになった人は42%から56%にプラス14ポイントと、突出して増加傾向が大きい。ほかのカテゴリーの人は数ポイント以内の増加だから、この差は気になる。いったい「独身男性」に何が起こったのか。
一方、テレワークになった「既婚男性」だけが、時間的なゆとりを感じる人が減っているように見える=再び、図表3参照。ただし、岩﨑さんによると、誤差の範囲内で統計的に意味はないそうだ。だが、ほかのカテゴリーではみんな増加傾向を示しているので、この男性における「独身」と「既婚」の落差についても、のちほど岩﨑さんに聞いてみたい。
最後にリポートでは、「性的役割分担」について、4カテゴリーに分けたことによる「独身者」と「既婚者」の思わぬ落差を紹介している。
それをまとめると、テレワークによって「独身女性」の残業時間が伸び、テレワーク中の「独身男性」と「独身女性」の残業時間はほとんど同程度になった(男性・21時間、女性21時間/図表2より)。
また、テレワークによって「独身男性」が時間的なゆとりを感じるようになり、テレワーク中の「独身女性」と「独身男性」の時間のゆとりの感じ方の男女差が縮まった(女性63%、男性56%/図表2)。
ところが、既婚者の間では、男女差が縮まる傾向が見られなかった。とくに、残業時間の差は、男性・26時間、女性・17時間と大きいままだ=再び、図表2参照。
この理由について、岩﨑さんはリポートの中で、
「今後の検証課題であるが、テレワークの拡大によって柔軟な働き方が可能になることで職場での男女差はなくなってきている一方で、家庭での役割については、伝統的な性別役割分業感が継続している家庭が多いことを反映している可能性が考えられるかもしれない」
と、結んでいる。
J-CASTニュース会社ウォッチ編集部では、このリポートで気になったいくつかの疑問を、リポートをまとめたニッセイ基礎研究所保険研究部准主任研究員の岩﨑敬子さんにぶつけてみた。
なぜ、ゆとり時間を満喫する「独身男性」は増えたのか? なぜ、「独身女性」の残業時間は伸びたのか? <テレワークの謎!「独身女性」は残業時間伸び、「独身男性」はゆとり満喫か...いったいなぜ?! 調査した女性研究者に聞くと...(2)>に続きます。
(福田和郎)
【プロフィール】
岩﨑敬子(いわさき・けいこ)
ニッセイ基礎研究所保険研究部准主任研究員(応用ミクロ計量経済学・行動経済学専門)
2010年、三井住友銀行入行。2015年、独立行政法人・日本学術振興会特別研究員。2018年、ニッセイ基礎研究所研究員。2021年7月より現職。
行動経済学をはじめ、公衆衛生学、社会学、人類学などさまざまな分野の視点を取り入れた実証研究を行っており、災害時の社会的なセーフティーネットの形成や、人々の幸福感の向上につながる政策的課題の発信を目指している。