「独身男性」に「ゆとり」が多い謎
リポートではさらに深堀して、テレワークは時間的なゆとりの感じ方にも影響を与えているかどうかも調べている。図表3は、4つのカテゴリー別に、時間的なゆとりを感じる人の割合の変化を示したものだ。ここでは「独身男性」に注目したい。
「独身男性」ではテレワークの有無にかかわらず、時間的なゆとりを感じる人の割合は増えているが、テレワークになった人は42%から56%にプラス14ポイントと、突出して増加傾向が大きい。ほかのカテゴリーの人は数ポイント以内の増加だから、この差は気になる。いったい「独身男性」に何が起こったのか。
一方、テレワークになった「既婚男性」だけが、時間的なゆとりを感じる人が減っているように見える=再び、図表3参照。ただし、岩﨑さんによると、誤差の範囲内で統計的に意味はないそうだ。だが、ほかのカテゴリーではみんな増加傾向を示しているので、この男性における「独身」と「既婚」の落差についても、のちほど岩﨑さんに聞いてみたい。
最後にリポートでは、「性的役割分担」について、4カテゴリーに分けたことによる「独身者」と「既婚者」の思わぬ落差を紹介している。
それをまとめると、テレワークによって「独身女性」の残業時間が伸び、テレワーク中の「独身男性」と「独身女性」の残業時間はほとんど同程度になった(男性・21時間、女性21時間/図表2より)。
また、テレワークによって「独身男性」が時間的なゆとりを感じるようになり、テレワーク中の「独身女性」と「独身男性」の時間のゆとりの感じ方の男女差が縮まった(女性63%、男性56%/図表2)。
ところが、既婚者の間では、男女差が縮まる傾向が見られなかった。とくに、残業時間の差は、男性・26時間、女性・17時間と大きいままだ=再び、図表2参照。
この理由について、岩﨑さんはリポートの中で、
「今後の検証課題であるが、テレワークの拡大によって柔軟な働き方が可能になることで職場での男女差はなくなってきている一方で、家庭での役割については、伝統的な性別役割分業感が継続している家庭が多いことを反映している可能性が考えられるかもしれない」
と、結んでいる。
J-CASTニュース会社ウォッチ編集部では、このリポートで気になったいくつかの疑問を、リポートをまとめたニッセイ基礎研究所保険研究部准主任研究員の岩﨑敬子さんにぶつけてみた。
なぜ、ゆとり時間を満喫する「独身男性」は増えたのか? なぜ、「独身女性」の残業時間は伸びたのか? <テレワークの謎!「独身女性」は残業時間伸び、「独身男性」はゆとり満喫か...いったいなぜ?! 調査した女性研究者に聞くと...(2)>に続きます。
(福田和郎)
【プロフィール】
岩﨑敬子(いわさき・けいこ)
ニッセイ基礎研究所保険研究部准主任研究員(応用ミクロ計量経済学・行動経済学専門)
2010年、三井住友銀行入行。2015年、独立行政法人・日本学術振興会特別研究員。2018年、ニッセイ基礎研究所研究員。2021年7月より現職。
行動経済学をはじめ、公衆衛生学、社会学、人類学などさまざまな分野の視点を取り入れた実証研究を行っており、災害時の社会的なセーフティーネットの形成や、人々の幸福感の向上につながる政策的課題の発信を目指している。