2022年1月1日時点の公示地価が全国平均で2年ぶりに上昇に転じた。新型コロナウイルスの感染拡大で6年ぶりに下落した前年に比べて影響が和らぎ、経済が徐々に持ち直していることを映し出した。
ただ、テレワーク(在宅勤務等)の広がりなどで堅調な住宅街がある一方、コロナ禍の傷がなお癒えない都心の商業地や地方の観光地は下落が目立つなど、用途・エリアにより回復ペースは大きな差が出た。
人気続く都心新築マンション、平均価格はバブル末期に迫る勢い
公示地価は、固定資産税の基準となる路線価とは違い、土地の実際の取引価格の目安になる重要な指標。国土交通省が2022年3月22日発表した。22年は調査対象の全国約2万6000地点のうち、上昇が44%(前年は19%)だった。
住宅地、商業地などを合わせた全用途の平均は前年より0.6%上昇(前年は0.5%下落)した。住宅地は0.5%上昇と、前年の0.4%下落からプラスに戻した。商業地も前年の0.8%下落から0.4%上昇に転じた。
それぞれ、地域別に詳しく見てみよう。
住宅地は東京、大阪、名古屋の3大都市圏、地方圏ともに0.5%上昇(前年はそれぞれ0.6%下落、0.3%下落)。ただ、地方圏の上昇は札幌、仙台、広島、福岡の中核4市が5.8%と、大きく上昇したことが要因。4市を除く地方圏は0.1%下落と、前年のマイナス0.6%から縮小したものの、水面下に沈んだままだ。
大都市、中核都市周辺は、通勤に便利な地域でのマンション開発が好調を持続しているほか、一方でリモートワークの拡大・定着から郊外の戸建て住宅の人気も高まった。毎日出勤するのでなければ、少々遠くても住環境の良い地域に住みたい、というわけだ。
東京圏では千葉県柏市(0.4%上昇)が14年ぶりにプラスを記録、さいたま市(1.5%上昇)、千葉市(1.0%上昇)、横浜市(0.8%上昇)も上向いた。また、札幌への人口集中にともなって周辺のベッドタウン開発が進んだことなどから、全国の上昇率トップ100のうち96地点を北海道占めた。
同時に、都心の人気も根強い。東京都23区では中央区、豊島区など8区が2%以上の上昇になり、億ション、タワマン人気も続いている。不動産経済研究所によると、旺盛な需要を反映し、2021年の東京23区の新築マンションの1戸当たりの平均価格は8293万円と、バブル末期の1991年に記録した最高値8667万円に迫っている。
観光地東京・浅草は前年の下落から反転...日本人客戻りつつある
商業地は3大都市圏が0.7%上昇(前年は1.3%下落)、地方圏がプラス0.2%(同0.5%下落)だった。ただ、地域的なばらつきは大きい。
3大都市圏では、大阪だけが横ばい(前年は1.8%下落)にとどまり、前年の1.7%下落から1.7%上昇へと急回復した名古屋と明暗を分けた。地方圏も、中核4市が5.7%上昇(同3.1%上昇)となったが、4市を除くと0.5%下落(同0.9%下落)と、マイナスのままだ。
それぞれの地域内でも、地殻変動ともいえる変化がみられる。
東京23区は、多くが上昇に転じる中、中央(1.3%下落)、千代田(1.2%下落)、港(0.3%下落)と、「都心3区」と言われる中心地だけがマイナスになった。テレワークの拡大が響いているのは確実で、オフィス仲介大手の三鬼商事によると、都心3区の2021年12月時点のオフィスの空室率は8.56~4.58%と、コロナ禍前の19年12月の1%台から大幅に悪化し、賃料も低迷している。23年には都心でオフィスが新たに大量供給されることから、厳しい状況が続くとの見方が強い。
23区の商業地で、逆に上昇が目立ったのは再開発が進む中野駅(中野区)や北千住駅(足立区)周辺などで、杉並区、荒川区なども含め、山手線の外側の上昇率が高かった。都心の商業集積地より居住地周辺の店舗を利用する傾向が強まっているとみられ、これもやはりテレワークの広がりが大きな原因といえるだろう。
観光地でも明暗分かれた。東京・浅草は地下鉄浅草駅近くのビルの地価が1.1%上昇と前年の12.0%下落から反転した。外国人はまだまだだが、日本人客が戻ってきているという。
一方、訪日客の来訪で潤っていた地域は厳しい。大阪・ミナミは有名フグ料理店が営業していたビルの地価の下落率は15.5%で、2年連続で全国の商業地で最大になるなど、全国商業地の下落率ワースト10のうち8地点をミナミが占めた。訪日客への依存度が高かった分、反動も大きいということだ。
大手紙経済部デスクは今後の見通しについて、「地価は全般的に言って、コロナ禍による最悪期を脱した程度で、コロナの感染状況はなお不透明なのに加え、ロシアによるウクライナ侵攻の世界・日本経済への影響も懸念され、先行き予断を許さない」と話している。(ジャーナリスト 白井俊郎)