コロナ禍で早期退職の募集が急増している。対象は3年連続で1万人を超え、リーマンショック後に次ぐ高水準だ。本書「早期退職時代のサバイバル術」(幻冬舎)は、転職すべきか、留まるべきか、どう変わればいいのか。大リストラ時代を生き残る術を示している。
「早期退職時代のサバイバル術」(小林祐児著)幻冬舎
著者の小林祐児さんは、人事コンサルティングなどを行うパーソル総合研究所主任研究員。著書に「働くみんなの必修講義 転職学 人生が豊かになる科学的なキャリア行動とは」(KADOKAWA)などがある。
「サバイバル術」と銘打っているが、「こうすればいい」「こうすれば年収が上がる」といったことを書いたノウハウ本ではない。
会社からは「いらない」と言われ、国からは「働き続けてくれ」と言われる中高年世代。この「板挟み」にどう対処すればいいのか。早期退職に直面した際、どうすれば幸せな選択ができるかの処方箋を提示した本である。
「働かないおじさん」問題は企業の人材マネジメントが原因
早期退職募集と同時にまた盛り上がっているのが、職場にいるやる気の見られない男性中高年を意味する「働かないおじさん」問題だ。なぜ、この問題が繰り返されるのかを最初に検討している。
小林さんは、男性中高年の労働問題は「働かない」「帰らない」「話さない」「変われない」という4つの問題に集約される、と指摘する。
「働かない」の本質は、企業の人材マネジメントがモチベーションの欠如を招き、出している成果ともらっている賃金にギャップが生じていることにある。
その原因は、入社から20年にわたって競争主義的な「校内マラソン大会」型のキャリアを過ごしてきたことにあるという。パーソル総合研究所の調査によると、平均42.5歳を境目にして、「出世したい」と「出世したいと思わない」の割合が逆転する。出世意欲がなくなってくると、すぐに「引退モード」が来る。出世以外の代替物がないから、出世の見込みがなくなると、働く意欲が減少する。欧米と比較し、日本型雇用に原因があるというのだ。
「働かない」問題の核心は「モチベーションがない」ことではなく、「モチベーションのエンジンが組織内出世に偏ってきた」ことによる「代替物のなさ」のほうにある、としている。そのため、この人材マネジメントが変わらない限り繰り返されてしまう「組織内再生産」の構造にある、と結論づけていた。
これからは「内部労働市場のアップデート」が必要
企業はどうすればいいのか。昨今ブームになっているジョブ型(職務主義)の人材マネジメントは、賃金カーブフラット化のための成果主義的な狙いが強く、中高年問題に対しては「処遇是正」という対症療法的な機能しかない、と見ている。
これから必要なのは、社内公募、社内副業・兼業などを通じて、従業員のキャリア志向性や進みたい職種の「意思」をマッチングさせていくような社内の流動性確保であり、「内部労働市場のアップデート」が必要だ、としている。
社内公募、社内のジョブ・マッチング、研修までを含んだ総合的な中高年施策を積極的に打っている企業の代表として、ソニーの取り組みを紹介している。50歳以上のベテラン・シニア社員に向けて新しい分野への挑戦(職域の拡大)サポート、キャリア形成・自律支援、制度変更を伴うキャリア支援総合施策を2017年から行っている。
社内マッチング・プラットフォームを持っており、上司の了承を得たうえで自分の経歴を登録しておく。すると、必要とする部署があれば、スカウトされる仕組みだ。社内で疑似転職をするようなもので、「変化適応力」を高めることにつながっているという。
それでは、個人としては転職にあたり、どう行動したらいいのだろう。小林さんは、特定領域の専門性だけでは生涯のキャリアは安定しないものになってきた、と問題提起している。技術・スキルの専門性にこだわりすぎるのは危険だ、として、変化適応力の重要性を説いている。
本書は男性中高年のネガティブな要素を検討してきたが、実は「日本の中高年には能力や経験で若年層にはない大きなポテンシャルがある」というのだ。それは、個人が持つ知能・能力の高さ、仕事を続ける気力、過去の膨大な仕事経験、人とのゆるやかなつながりだ。
後悔しない転職、10のポイント
後悔しない転職、10のポイントも参考になるだろう。
1 転職活動は「うまくいかなくて当たり前」の心構えで
2 「孤独」に転職しないこと 相談できる人を2人以上見つけておく
3 マネープランは「ライフプラン」と合わせて考える
4 「肩書」「名刺」を求めすぎない 実質的な仕事内容が大事
5 転職への「想い」は話してつくる じっと一人で悩むよりも人と話してみる
6 「人づて」転職は紹介者以外の人と会う 紹介者以外の情報も集める
7 「即戦力」を目指さない 気負ってしまうと、逆にサポートを受けにくくなることも
8 転職先では、経験や知識のアップデートを これまでの経験や学びを捨てる
9 「出羽守(ではのかみ)」にならない 「前の会社では......」と前職の経験を話さない
10 「前の会社」とつながり続ける 会社を超えて人とのつながりは人生の財産になる
かくいう評者も早期退職者の一人だ。現在の仕事に落ち着くまでに4つ以上の仕事を経験した。収入は減ったが、生涯長く続けられる仕事を得て、今は満足している。上記のポイントを見て、納得するばかりだ。
(渡辺淳悦)
「早期退職時代のサバイバル術」
小林祐児著
幻冬舎
1078円(税込)