ウクライナ危機の影に潜む「チャイナリスク」! それは、世界「食糧危機」を招くのか?

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   世界中がロシアのウクライナ侵攻に目を奪われている間に、別の世界経済の危機が進行しているようだ。チャイナリスクだ。

   ウクライナ情勢の悪化と中国経済の減速は、まず世界の食糧危機という意外なかたちから打撃を与えてくるかもしれない。

   いったいどういうことか。エコノミストの分析を読み解くと――。

  • 中国にも「分断」が起こるのだろうか(写真はイメージ)
    中国にも「分断」が起こるのだろうか(写真はイメージ)
  • 中国にも「分断」が起こるのだろうか(写真はイメージ)

「ゼロコロナ」で春の作付けできない中国農村

   「ウクライナ問題」が中国に波及し、思わぬ「食糧危機」が世界を覆うといったトーンで警告するのは、野村総合研究所エグゼクティブ・エコノミストの木内登英氏だ。

   木内氏のリポート「中国ゼロコロナ政策が世界経済のリスクに。ウクライナ問題と結びつき世界の食料問題にも」(4月8日付)によると、まず人口2600万人の上海での厳格なロックダウン(都市封鎖)が世界経済に悪影響を与える。

「上海は国際金融センターであるとともに、多国籍企業の多くが中国本社と工場を置いている場所だ。米電気自動車(EV)大手テスラは3月28日に、上海工場の生産を停止したと伝えられた。さらに上海には、国内最大でコンテナの取扱量では世界トップの上海港がある。ロックダウンの影響で港湾業務は滞っており、中国の主要港の沖で待機するコンテナ船の数は、2月から2倍近くに増えた」

   当然、世界各国のサプライチェーンは電子機器だけでなく、肥料から医薬品に至るまで、上海からの輸入に大きく依存している。上海市のGDP(国内総生産)は中国全体の4%だという。ちなみに、ロシアのGDPは中国のおよそ10分の1にあたるから、上海市のGDPはロシアのGDPの4割に匹敵する。いかに、ロシア経済の縮小と上海市経済の縮小とが、世界経済の成長率を顕著に押し下げるかわかるだろう。

ロックダウンされた人口2600万人の巨大都市、上海
ロックダウンされた人口2600万人の巨大都市、上海

   もう1つ厄介なのは、中国政府の「ゼロコロナ政策」とウクライナ戦争が結びつき、世界的な食料価格の高騰を生み出すことだ。木内氏が説明する。

「ウクライナ紛争は、ロシアとウクライナの小麦の輸出に大きな打撃を与え、既に価格高騰をもたらしている。そして、中国の『ゼロコロナ政策』は中国での穀物の作付けの大きな障害となっており、世界の穀物需給を逼迫させる可能性が出てきている」

   ウクライナの最大のトウモロコシの輸出先は、中国だ。トウモロコシは中国にとって重要な家畜飼料なのだが、ロシアの侵攻によって、ウクライナからの輸入が止まった。そこにダブルパンチで襲ってきたのが、かたくなな「ゼロコロナ政策」の「被害」だ。中国の農業地域では春の作付け時期を迎えているのに、都市部のロックダウンによって、農村部への出稼ぎ労働者の移動が制限されているのだ。

「コメやトウモロコシなど春に作付けする穀物の生産量が減少すれば、中国は穀物調達のため海外からの輸入拡大を強いられる。それは、新型コロナ問題や、ウクライナ問題によって既に高められている食料インフレの傾向を、さらに加速させてしまうだろう」
「多くの国で一段の物価高を生じさせ、家計への打撃となる。さらに低所得国では深刻な食料不足問題を生じさせる可能性もあるだろう。中国の『ゼロコロナ政策』は、このような経路でウクライナ問題と結びつき、世界経済の問題をより複雑にしているのである」

と、木内氏は結んでいる。

世界金融危機時に匹敵する「中国経済の減速」

   経済の低迷が中国にも分断を招くかもしれない、と警告するのは第一生命経済研究所主席エコノミストの西濵徹氏だ。

   西濵氏のリポート「『躓(つまず)いた』では済まないかもしれない中国経済~ゼロ・コロナ戦略の悪影響の長期化懸念に加え、同国においても『分断』が生まれるリスクにも要注意~」(4月6日付)の中で注目したのは、経済指数の悪化だ。

   今年1~3月の製造業とサービス業を統合した総合PMI(購買担当者景気指数)が48.0に下落した=図表1参照。「購買担当者景気指数」(PMI)とは、企業の購買担当者に新規受注や生産、雇用の状況などを聞き取り、景況感についてアンケート調査した結果を指数化したもの。「50」を判断の分かれ目とし、この水準を上回る状態が続くと景気拡大、逆に下回る状態が継続すると景気減速を示す。

(図表1)中国の製造業・サービス業PMIの推移(第一生命経済研究所の作成)
(図表1)中国の製造業・サービス業PMIの推移(第一生命経済研究所の作成)

   中国では、武漢で最初に新型コロナが発見された直後の2020年1~3月(42.0)に急落したが(再び、図表1参照)、それ以前では2009年1~3月に大きく下がった時期の水準となる。この時期はまさしく、リーマン・ショックに端を発した世界金融危機が発生した頃なのだ。西濵徹氏はこう指摘する。

「過去に遡れば世界金融危機の影響がくすぶる2009年1~3月(47.6)並みの水準となるなど極めて厳しい状況にあると判断できる」「多くの都市において都市封鎖が実施されるなど幅広く経済活動の足かせとなる動きが続いており、サプライチェーンが大きく混乱するとともに、市民生活にも悪影響出ている」「景気への下押し圧力が長期化する可能性も高まっている。その意味では足下の中国経済は『躓つまずき』では済まされない状況に陥ることが懸念される」

   しかしながら、中国以外の他国ではコロナ禍対応をめぐり、国民の間に分断が生まれて各国政府に難題を突き付けているのに対して、これまでの中国では言論統制を通じて「ゼロコロナ」戦略に有無を言わせない雰囲気が醸成されてきた。だが、西濵徹氏はこう結ぶのだった。

オミクロン株の脅威に中国は勝てるのか(写真はイメージ)
オミクロン株の脅威に中国は勝てるのか(写真はイメージ)
「ゼロコロナ戦略の弊害が顕在化するなかで、国民の間に不満が高まる動きもみられるなど、(今秋には5年に一度の中国共産党大会が開かれる)政治の季節を控えるなかで『中国ルール』が行き詰まりをみせることも考えられる」

中国から西側資金が流出する「3つの理由」

   中国経済の減速を見越して、西側諸国の資金の大規模な流出が始まったと伝えるのは日本総研だ。

チャイナリスクが世界経済の減速を呼び込むか?(写真はイメージ)
チャイナリスクが世界経済の減速を呼び込むか?(写真はイメージ)

   そのリポート「中国証券市場から大規模な資金流出―対露制裁、ゼロコロナ政策、米利上げが背景―」(4月6日付)によると、3月の中国証券市場から資金純流出額は175億ドル(株式63億ドル、債券112億ドル)に達し、統計開始の2015年以降で最大だ=図表2参照

   資本流出の加速は、中国政府が進める海外からの積極的な資金調達や人民元の国際化に大きな打撃となっている。流出の背景のポイントは以下の3点だという。

(図表2)中国の資本フロー(日本総研の作成)
(図表2)中国の資本フロー(日本総研の作成)

   (1)西側諸国の投資離れ。ロシアに対し厳しい経済制裁を科す米国は、中国などとの取引が制裁の抜け道となる可能性を懸念し、ロシアと取引を行う外国人や外国企業に対する「2次的制裁」を示唆。中国が制裁に反対の姿勢を示していることもあり、中国での取引にも制裁が科されるとの懸念が台頭した。

   (2)ゼロコロナ政策による景気悪化。都市部で厳しいロックダウンが実施されており、需要と供給の両面で経済活動が停滞。3月の中国PMI(購買担当者景気指数)は製造業、非製造業ともに景気判断の分かれ目である50割れ。4月以降も上海でロックダウンが継続、景気はさらに悪化する見通し。

   (3)米国の利上げ。米FRB(連邦準備制度理事会)の利上げが本格化するなか、米中の金利差は急速に縮小し(図表3参照)、中国債券市場からの資金引き上げ要因に。今後、人民元への強い下落圧力をもたらす見込み。

(図表3)人民元と米中金利の差(日本総研の作成)
(図表3)人民元と米中金利の差(日本総研の作成)

中国不動産バブルの崩壊、いよいよ始まるのか?

   最後に、中国の不動産大手・恒大集団の経営危機などから、中国の不動産バブルの崩壊のリスクに懸念を示すのが、信金中央金庫地域・中小企業研究所の平岡芳博氏だ。 平岡氏のリポート「灰色のサイ-不動産バブルの持続的拡大と中国債務の現在」(4月5日)は、全12ページにわたる力作だ。

   リポートのタイトルにもなっている「灰色のサイ」とは、「ブラックスワン」(=黒い白鳥。白鳥は白いものという常識を覆して〈発見〉されたオーストラリア固有種)との対比で生まれた言葉。そして、「灰色のサイ」は「ブラックスワン」のように、「既存の知識や経験からは予測不可能かつ極端な事象で、実際に起きると甚大な影響を及ぼすリスク」で、

「普段はおとなしいが、暴れだすと手が付けられないサイのように(中略)予測可能であるにもかかわらず直視されることがなく、ひとたび発現すると大きな問題となり得るリスク」

のことだそうだ。それが、中国の不動産バブルというわけだ。

   平岡氏によると、中国の不動産バブルの厄介なところは、日本版バブル崩壊(地価の下落が企業のバランスシートを直撃)と違って、集合住宅(分譲マンション)が投資の対象になっていることだ。

   しかも、図表4のように銀行が、デベロッパーに対する開発資金・運転資金の貸出という「供給サイド」と、個人に対する物件購入資金の貸出という「需要サイド」の両面から、取引の成立を支える構図になっている点だ。つまり、需要と供給の両面からあおっているわけだ。

(図表4)中国の住宅販売の構図(信金中央金庫地域・中小企業研究所の作成)
(図表4)中国の住宅販売の構図(信金中央金庫地域・中小企業研究所の作成)

   そのうえ、こうした銀行は「住宅ローンに関する統計データ等が十分とは言えない」ため、実態の把握が困難なようだ。平岡氏は「危機は迫っている」とこう結んでいる。

「弾けないバブルはない。重要なことは、貸出の拡大でバブルを支えたり、経済規模の拡大によって希釈することではなく、バブルの縮小に向けたデレバレッジの途を準備しておくことである。デレバレッジとは、つまるところ、額面を満たさない資産の損失を確定し、当該損失を関係者でどう分担するかの作業である」

と、中国の不動産に投資した日本の中小企業経営者らに、速やかな「撤退作戦」開始を呼びかけたのだった。

(福田和郎)

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