「米国はロシアとの経済戦争で完勝に向け前進中」
ところで、そんなチキンゲームの中でも、米国だけが独り勝ちの様相を呈してきたと指摘するのが、りそなアセットマネジメントのチーフ・エコノミスト黒瀬浩一氏だ。
リポート「米国はロシアとの経済戦争に完勝に向け前進中」(4月6日付)のなかで、「この戦争には、米国とロシアの経済戦争の側面がある」として、こう説明する。
「米国は、かつては世界最大のエネルギーの輸入国だったが、2000年以降のシェール革命により近年は純輸出国に変わった。この影響は極めて大きい。下図(図1、2参照)のように、エネルギー価格の上昇が米国経済にとってマイナス要因からプラス要因に変わったのだ」
1970年以降の米国は、原油価格が跳ね上がると、例外なく景気後退に陥った。しかし、近年は真逆になった。さきほどの「図1」の黄色の箇所をみると、かつてはエネルギー価格が急上昇すると、交易条件が悪化することが同じタイミングで起こっていた。
ちなみに、交易条件とは輸出価格を輸入価格で割った相対価格のことで、貿易での稼ぎやすさを示す指標だ。ざっくり言うと、交易条件が好転すると、国内に資金が流入するため景気がよくなる。交易条件が悪化すると、景気が悪くなる。
しかし、「図2」を見ると近年は、交易条件の好転によって株価が上昇、交易条件の悪化によって株価が下落するセオリーの真逆のことが起こっている。これは、エネルギー価格の上昇が交易条件の好転というかたちで、米国経済に有利になったのだ。つまり、ロシア・ウクライナ戦争で原油価格が高騰することは、米国経済にとって歓迎すべきこと、というわけだ。
黒瀬浩一氏はこう指摘する。
「今後この関係性は、欧州向けエネルギー市場を米国がロシアから奪い取ることで、一段と強化されるだろう」
「ほかにも米国には勝因がある。ロシア・ウクライナ戦争の勃発を受け、欧州や日本を含む世界各国で防衛費の増加が見込まれる。米国はトランプ政権時代に同盟国に対し防衛費の増額を要請して物議を醸した。しかし、期せずして防衛費の増加が実現する。防衛費はざっと半分が武器弾薬だが、ロシアが排除された後の世界の武器市場を米国がほぼ総取りする可能性さえあるだろう」
同盟諸国が防衛費を増額すれば、駐留米軍の負担を減らすことが可能だ。また、ロシアが担ってきた武器輸出を奪うことができる。しかも、恩恵はそれだけにとどまらない、と黒瀬氏は見る。
「小麦やトウモロコシなど穀物の価格高騰も同様で、純輸出国である米国は恩恵を受ける。まだロシア・ウクライナ戦争は続いているが、米国はロシアとの経済戦争で完勝に向け前進中だ」
米国は穀物市場でも、ロシアを凌駕しようと狙っているというわけだ。米国のバイデン大統領が、大いに勇んでロシアの経済制裁強化の邁進するのは、必ずしも人道的な正義感からばかりではないのかもしれない......。
(福田和郎)