狙いの2つ目は「欧州の足並みを乱す」
もう一つの狙いが、欧州の足並みを乱すことだ。
欧州はロシアのウクライナ侵攻を受け、エネルギー輸入の大半をロシアに頼る現状からの転換に動きはじめた。しかし、ロシア産天然ガスの輸入先を中東など他の産地に切り替えるには時間がかかる。
欧州もエネルギー戦略では一枚岩とは言えない。欧州の中でも脱原発で先行していたドイツはロシア依存がとくに高い。イタリアも電気代などの値上げに直結するロシアからのエネルギー輸入規制には慎重とされる、など各国の思惑が交差している状況だ。
現に、ロシアの「ルーブル払い」」の戦略が明らかになると、欧州は大混乱になった。
主要7カ国(G7)は3月28日、エネルギー相会合を開き、ルーブル払いは「契約違反だ」として拒否する方針で一致。ドイツのショルツ首相は、プーチン氏と電話会談して「これまで通りユーロ払いが可能」との言質をとったと説明してみせた。
実際にはプーチン氏の大統領令署名を止めることはできなかったが、欧州の慌てぶりは今回の一手がいかに欧州各国の痛いところを突いた手だったかが分かる。
ただし、ロシアにとって「ルーブル払い」は危険な賭けでもある。欧州各国はいっせいに反発している。ウクライナでの民間人虐殺への追加制裁も含め、今後の事態の推移によっては、欧州という巨大市場を一気に失いかねないのだ。
ロシアと欧州のせめぎ合いは「肉を切らせて骨を断つ」痛みを伴う攻防の段階にきている。(ジャーナリスト 白井俊郎)