新年度がスタートした2022年4月2日、多くの企業で入社式が行われた。
ロシアのウクライナ侵攻による世界経済の後退、再びリバウンド傾向がみられ始めた新型コロナウイルスの感染拡大。
そんな非常時だからこそ、多くの社長さんが心の底から新入社員を歓迎し、「一緒にこの危機を乗り越えていこう!」と熱いエールを送った。
J‐CASTニュース会社ウォッチ編集が、「心に響く社長の挨拶」を独断で選んでみた。
トヨタという「大きな会社の小さな社会」から抜け出せ
<入社式「心に響く社長の挨拶」はコレ! 会社ウォッチ編集部が独断で選ぶ珠玉の言葉の数々【2:ビジネスの心構え編】>の続きです。
かつてフジテレビに、「楽しくなければテレビじゃない!」というスローガンがあったが、今年(2022年)の社長さんたちの挨拶には「楽しくなければ仕事じゃない!」というキーワードが多かった。
トヨタ自動車の豊田章男社長は1000人を超える新入社員を前に、冒頭、「人が集まる9か条」という言葉を紹介した。これはおそらく、高野山真言宗の築港高野山釈迦院に書かれている言葉だろう。
「人は、人が集まるところへ集まる。
人は、快適なところへ集まる。
人は、噂になっているところへ集まる。
人は、夢の見られるところへ集まる。
人は、良いもののあるところへ集まる。
人は、満足が得られるところへ集まる。
人は、自分のためになるところへ集まる。
人は、感動を求めて集まる。
人は、人の心を求めて集まる。」
そしてこう続けた。
「この9か条はデジタルが普及した今日でも、まったく変わらないと思います。私は、トヨタを多くの人が『集まる』場所にしたいと思っております」「今では、6万社もの仕入先の皆様がトヨタと仕事を一緒にしてくださっています。『みんなで一緒にやる』。それが私たちトヨタの原点です」
このあと、水素エンジンのカローラが「スーパー耐久レース」に挑戦しているシーンをスクリーンに流した。
「始めたときには想像もできなかったことです。なぜ、一緒にやろうと言ってくださる仲間が増えたのか。『水素でカーボンニュートラル社会を実現する』という志に共感してくださったことはもちろんだと思いますが、何よりも私たちが『深刻なテーマ』を『真剣に』、『楽しんで』やっていたからだと思います」
「『人が集まる9か条』にもう1つ追加するならば、『人は、嬉々としてやっている人のところに集まる』。これだと思います」
そして3つの「お願い」を述べた。
「1つめは、クルマを好きになってください。クルマは世界中のお客様の人生を支えています。『人生をあずけられる』。お客様がそう思えるクルマをつくれるのは、やはりクルマが好きな人だと思います。(中略)仕事を楽しむための第一歩は、クルマを好きになることだと思います」
「2つめは、まずは3年間、がむしゃらに、何事も楽しむつもりで仕事をしてみてください。3年が長ければ3か月、それも長ければ3週間でも構いません。仕事を通じて出会う人たちの姿を見て、何かを感じるはずです。そこには、クルマを好きになり、トヨタを好きになり、仕事が楽しくなっていく『きっかけ』があると思います」
3つ目は「挫折を恐れないでください」だった。
「壁にぶつかり、くじけそうになったときは、一度、会社の外に目を向けてみてください。トヨタという『大きな会社の小さな社会』から抜け出してみると、そこには『ひとりの人間』としての自分がいるはずです。『ひとりの人間』として接してくれる家族や友人がいるはずです」
原石の皆さん「ローソンという舞台で楽しんで!」
ローソンの竹増貞信社長も、「楽しくなければローソンじゃない!」とばかりに「3のお話」を新入社員に語った。
「まず1つ目は『皆さんは楽しくする達人だ』ということです。皆さんはコロナ下の2年間、仲間たちと創意工夫をしながら厳しい環境で、いかに楽しく過ごすことができるかにチャレンジしてきたと思います。ローソンは『変化対応業』です。いかにスピーディーに、楽しく、変化に対応していくことができるかを日々問われています。(中略)色々なことが起こると思いますが、自信を持って大いに立ち向かって、楽しく仕事をしていただきたいと思います」
「2つ目は、皆さんはダイヤモンドの原石であるということです。ローソンでは、入社の前に自分を漢字1文字で表わすアンケートをしていますが、今年はほとんど同じ漢字がありませんでした。皆が違う漢字で良いのです。これがダイバーシティであり、皆さんの価値です。誰しも皆違う良さがある。それぞれの違いや価値観を大切に、ダイヤモンドになるべく自分を磨き続けてほしい。そして、ローソンの舞台の中で光り輝いてほしい」
「3つ目は、私たちは何のために仕事をしているのかを常に立ち止まって考えてほしいということです。(中略)ローソングループの理念は、『私たちは〈みんなと暮らすマチ〉を幸せにします。』です。(中略)私たちには〈みんなと暮らすマチ〉を幸せにするためのビジョン『マチのほっとステーション』があります」
東北の地震のような有事の際には、マチの皆さんに安心してもらう役割を果たす。もちろん、平時も暮らしをサポートしていくのが、「マチのほっとステーション」だと強調したうえで、行動指針の「ローソンWAY」を語りかけた。
「マチ一番の笑顔あふれるお店をつくろう。アイデアを声に出して、行動しよう。チャレンジを、楽しもう。仲間を想い、ひとつになろう。誠実でいよう」
そして最後にこう呼びかけた。
「改めてお伝えします。皆さんは楽しくする達人です。(中略)そして、ダイヤモンドの原石の集まりです。ぜひ大いにローソンという舞台で楽しんでください!」
「会社に損をさせるようなアイデアを出せ」!
インターネット接続サービス大手のIIJ(インターネットイニシアティブ)の鈴木幸一会長は、「若い頃ホンダの創業者、本田宗一郎さんに可愛がっていただいた」というだけあって、とにかく挨拶が豪快だった。
「学生から社会人になると何が違うのか。大きな違いは、お金を払って学校に通う立場から、お金をもらう立場になるということです。これを良い仕組みだと思うか、何もしなくてお金がもらえるわけはないから大変だと思うか、皆さんはどっちでしょうか」
「会社のもうひとつの良い点は、たとえ何か失敗をしても、損をするのは失敗した個人ではなく、会社だということ。会社で一番面白いのは、チャレンジの機会が与えられるようなプロジェクトを自分で立ち上げられるということです。個人が破産することはないのだから、会社に損をさせるようなアイデアを出すくらい勉強してください」
ここで、本田宗一郎さんとの思い出深いエピソードを紹介した。
「(本田宗一郎さんに)『飲み代くらいで会社は潰れない。でも本当にやりたいことをやると、会社はすぐ潰れるよ』と言われたことがあります。何かをやろうとする時、会社というのは非常に都合がいい。非常に面白くて、将来モノになるのではというプロジェクトには、会社は100億円くらいすぐ出してくれる。個人でどんなに飲んでも1000万円使うのは大変です」
「失敗しても、その損は会社にかかってくる。それが会社の面白さであり、普通ならできないようなことも、会社という場で考えるとそれを実現しようとして後押ししてくれたり、実現できたりする。それが社会人の楽しい部分で、生きているという実感を持つためにはそうした発想が必要です」
そして、最後はこう結んだ。
「ただ会社に与えられた命令に従って働くだけでは楽しくない。ぜひいつか、会社のお金を思い切り使うようなプロジェクトを自分でやりたいという思いをもって、IIJで働いてください。(中略)次の30年は皆さんが担うわけで、ぜひ、本当に国を変えていく、あるいは、そういう強い思いをもって仕事に取り組んでいただきたいと思っています」
と、太っ腹なところを見せたのだった。
「仕事を好きになって、会社生活を楽しめる人になってほしい!」
自動車用排ガス浄化触媒のキャタラー(静岡県掛川市)の砂川博明社長は、28人の新入社員を前に、まずこう語って安心させた。
「皆さんはどんな心境でしょうか? 明るく希望に満ちて100%ポジティブでしょうか? コロナ禍、ウクライナ情勢など、社会や経済に不安定要素が多く存在し、会社の将来に関する不安や心配事もあると思います。キャタラーでは、それら直近の課題に迅速・的確に対応するだけでなく、今後10年先、20年先も持続的に成功し続けるための取り組みを加速させているので安心してください」
仕事との向き合い方については、「論語」の言葉を紹介し、「会社生活を楽しむ」ことこそ「皆さんへの期待だ」と結んだのだった。
「之を知るもの、之を好むものに如かず。
之を好むもの、之を楽しむものに如かず。
という論語の言葉があります。(中略)『物事をよく知っている人も、物事が好きな人には勝てない、物事が好きな人も、物事を楽しむ人には勝てない』と言う意味です。新入社員の皆さん、仕事を覚えるだけでなく、仕事を好きになってください。そのためにまず、キャタラーを好きになって下さい。そして、会社生活を楽しめる人になってください」
(福田和郎)
「心に響く社長の挨拶」シリーズ
▼入社式「心に響く社長の挨拶」はコレ! 会社ウォッチ編集部が独断で選ぶ珠玉の言葉の数々【1:平和への願い編】
▼入社式「心に響く社長の挨拶」はコレ! 会社ウォッチ編集部が独断で選ぶ珠玉の言葉の数々【2:ビジネスの心構え編】