新年度がスタートした2022年4月2日、多くの企業で入社式が行われた。
ロシアのウクライナ侵攻による世界経済の後退、再びリバウンド傾向がみられ始めた新型コロナウイルスの感染拡大。
そんな非常時だからこそ、多くの社長さんが心の底から新入社員を歓迎し、「一緒にこの危機を乗り越えていこう!」と熱いエールを送った。
J‐CASTニュース会社ウォッチ編集が、「心に響く社長の挨拶」を独断で選んでみた。
「何事も『Yes』から入ると道は開けてくる」
<入社式「心に響く社長の挨拶」はコレ! 会社ウォッチ編集部が独断で選ぶ珠玉の言葉の数々【1:平和への願い編】>の続きです。
OKI(沖電気工業)の森孝廣社長は、「私も社長1年生でドキドキの日々を過ごしています。そんな私から皆さんに先輩としてアドバイスします」と優しい語り口で話し始めた。
「皆さん全員が社長になる可能性があります。当社は、天才型よりも努力型の人の方に合う会社です。普通の人がほんの少しの勇気と努力を積み上げていけば、どんどんポストがついてきます。目の前の仕事を『実行して考え』、そして『考えて実行する』。この日常の努力の積み上げと、少しの幸運が重なれば、視界が開けてきます」
その際、大切なことは「積極性」と強調した。
「皆さんの態度が『能動的』か『受容的』かで、周りの反応が変わります。会社に入ると一気に活動範囲が広がり、経験したことのない地域・文化・人などに悩むこともあるでしょう。私も入社してすぐ悩みましたが、仕事はもちろん、挨拶、会話、飲み会、ゴルフ、遊びなど、『待ち』から『押し』の姿勢に変えました。すると風景が一変、周りも変わり、仕事も私生活も充実しだしました。何事も『Yes』から入ると道は開けてくると思います」
「現地・現物・現認の現場第一主義でいこう」
近鉄エクスプレス・鳥居伸年社長は「貨物屋」としての「現場第一主義」と強調した。
「当社は世界46か各国301都市で697の拠点を持った総社員数約1万7000名の総合物流業者であり、世界的規模の『貨物屋』です」
と説明した後、こう続く。
「皆さん『デジタルネイティブ』世代は、情報収集能力が他の世代より優れ、未知の事に関しても自分の価値観をしっかりと確立されているでしょう。一方で、いろいろな制約のために、実体験や実経験がかなわなかったことも事実であると思います」
それだけに、今後はどんどん現場を踏んでほしいと呼びかけた。そして、格言の矢を次々と放ったのだった。
「習うより、慣れろ」
「石の上にも三年」
「百聞は一見に如かず」
「馬には乗ってみよ、人には添うてみよ」
「学びて思わざれば、則ち罔(くら)し」
インターネットでばかり情報を集めるデジタルネイティブ世代の新入社員に不安を覚える社長さんは多いようだ。埼玉県羽生市に本社がある曙ブレーキ工業の宮地康弘社長も、「現場主義」の大切さを訴えたのだった。
「今後、仕事をする姿勢として『現地』『現物』『現認』という3つを覚えてほしい。現地、現場に足を運んで、現物、現実を自分の目で見て確認すれば、必ず良い結果が出るし、自分自身が成長できる。新型コロナウイルス感染拡大をきっかけに働き方改革が進んでいるが、この本質は変わらない。デジタルネイティブ世代の皆さんの視点を活かして、積極的に働き方改革への提案をしてほしい」
「仕事だけではなく私生活でも誠実であれ」
さまざまな就活生の入りたい企業ランキングでは、常にトップクラスの野村総合研究所の此本臣吾社長は、「私生活でも誠実であれ」と厳しく説いた。野村総合研究所(NRI)の3つの企業風土を引き合いに、こう語ったのだ。
「1つ目は、『任された仕事は絶対に手を抜かない』ということです。この先、苦しい仕事に直面することもあるでしょう。そのような場面においても全力で仕事に取り組み、やりきるという経験こそが、自らの成長を支える土台になります」
「2つ目は、『仕事だけではなく私生活でも誠実である』ということです。いかに優秀でも、誠実さがなければお客様からの信頼は得られません。真面目で誠実な姿勢は、NRIグループが誇れる組織風土です」
「3つ目は、『謙虚な心を持つ』ということです。自分ひとりでできることには限りがあります。幅の広い大きな仕事をしていくには、他者とのコラボレーションが不可欠です。誰に対しても謙虚、真摯な態度で接し、信頼してもらえる行動を取ることを忘れないでください」
古河電工の小林敬一社長は、これから仕事をしていくうえでの心構えとして、「CanとWillを増やそう」と呼びかけた。
「私から皆さんにエールを贈ります。それは『失敗を恐れずに、自分の『Can』を増やし、『Will』を見つけてほしい」ということです。『Can』とは『自分が出来ること』、『Will』とは『自分がやりたいこと』です』
「『失敗をしたら周りから何と言われるだろう』『失敗をしたら迷惑を掛けるのでは』と恐れるあまり、実際に行動に移せないことがあるかも知れません。(中略)失敗は勇気を出して行動した証、次に繋がる成長の糧なのです。好奇心を持っていろいろなことにチャレンジしてください」
仕事に対する姿勢について、学制時代から剣道を続けている三菱重工の泉澤清次社長は、座右の銘にしている武道の修行の言葉である「守破離」(しゅはり)の気持ちを持って仕事と向き合ってほしい、と説いた。
「『守』は先生の教えを守りそれを確実に身につける段階を、『破』は『守』の段階で学んだことに自分なりに工夫を凝らし変えていく段階を、『離』は自分独自のやり方を確立していく段階を指します。まずは、先輩たちの良いところは貪欲に真似をする」
と、「守」の段階からしっかり基本を身に着けようと呼びかけた。それと、もう1つ強調したのが、「一人称」というキーワードだった。
「どのような仕事も自分がやる。自分でやるという意識で受け身ではなく、半歩でも前に出て取り組み、環境や周囲のせいにせず、何ができるかを自問すること」
これが大切だと訴えたのだった。
元祖「SDGs」の「三方よし」の商人道
伊藤忠商事の石井敬太社長は、創業者である初代・伊藤忠兵衛の「商人道」から説き起こした。
「近年、企業経営におけるSDGsの重要性が一段と高まりを見せていますが、その中でたびたび『三方よし』という言葉が引用されます。この『三方よし』は、売り手、買い手、世間の三方が共に満足すると言う共存共栄の考えにあり、伊藤忠兵衛翁に代表される近江商人の経営哲学をルーツとする、現在の当社の企業理念です」
いわば、元祖「SDGs」の考え方というわけだ。そして、新入社員たちに常に社会貢献を意識せよ、と訴えた。
「ビジネスの基本は信用です。信用のない仕事は長続きしません。自分の利益中心ではなく、お客様や仕入れ先のことを考え、また、そのビジネスが社会に貢献するものであるかどうかを大事にしていれば、必ず周囲からの信用を得ることができます。そしてその信用がまた次のビジネスに繋がり、信用の連鎖が生まれます」
「会社にしがみつくな。どんどん起業して去れ」
そんななか、新入社員に対して、のっけから「会社にしがみつくな。どんどん起業して会社を去ってほしい」と呼びかけたのが総合商社、双日の藤本昌義社長だった。
「『自分の人生に責任を持ってほしい』ということです。これは、自分の人生をどう自分が責任をとれるように設計し、決断していくかということです。(中略)後悔しない人生を送るために、自分のこれからの長い人生を俯瞰し、今このタイミングで何をするべきかを真剣に考えて欲しいと思います」
「皆さんには会社にぶらさがる社員ではなく、自ら起業して外に出ていけるくらいの能力・気概を持った社員になって欲しいと思います。当社では35歳で副業・兼業を認めるジョブ型会社に転籍する制度もありますが、そこまでは社会人としての基本、商売のいろはを是非身に着けてください」
双日は「多様性を競争力に」をスローガンにしており、この日の新入社員88人の半数以上が女性だった。6年連続で「なでしこ銘柄」に選出され、女性活躍を推進している会社としても評価されているという。藤本社長の「ゲキ」を新入社員たちはどう受け止めただろうか。
(福田和郎)