6月の株主総会までに「新たな方向性」固めへ
形の上では「痛み分け」にも見えるが、経営判断として「2分割」という重大な方針を示し、否決された経営側の受けた痛手が大きいのは言うまでもない。
「3分割」から「2分割」に変更した後、22年3月1日には綱川智社長兼最高経営責任者(CEO)が社長を退き、島田太郎執行役上席常務が後任に就く人事を突然発表。21年4月に当時の車谷暢昭社長が、自身がかつて会長を務めた英系投資ファンド「CVCキャピタル・パートナーズ」による丸ごと買収(非上場化)に動くなど混乱を招いて辞任に追い込まれた。
それを機に、会長に退いていた綱川氏が社長に復帰し、11月に「3分割」案をまとめたが、その後も株価の低迷が続き、「2分割」案に修正のうえ、社長交代――。これは株主総会に向け、経営陣の刷新で株主の不信感を少しでも和らげようという狙いと見られたが、これも奏功しなかった。
今回の否決に拘束力はないので、論理的には「2分割」案を進めることは可能だが、現実的には困難。東芝は2023年度の定時株主総会で正式に再建案を諮る方針で、22年6月の株主総会までに新たな方向性を固め、1年かけて具体化することになる見通しだ。島田社長は否決を受けて、総会の場で「企業価値向上のためあらゆる選択肢を検討する」と述べた。
今回の総会の結果を受け、「非上場化」の可能性が高まったとの見方もある。ファンド側の非上場化検討の議案も否決されたが、経営方針が定まらないなかで、「株主との争いを収め、迅速な経営判断で再建を目指すという非上場化の利点を経営陣としても検討するのは当然」(エコノミスト)との指摘もある。
ただ、東芝は原発など国がとくに重要と位置付ける「コア業種」を抱え、買収となれば外為法の定めで重点審査を受ける。非上場化する場合、買い手は海外ファンドなどが想定され、すんなりと進むかは微妙だ。買い手によっては、海外の独占禁止法に抵触する恐れもある。
会社の形態もさることながら、経営体制への不信こそが、今回の総会で明らかになった最大の問題点ともいえる。
今回の記事では触れなかったが、2020年の株主総会の不明朗な運営も明らかになり、そのあおりで21年6月の定時株主総会では、企業統治の要として取締役会議長を務めていた社外取締役の永山治氏(中外製薬名誉会長)らの取締役再任が否決された(議長は綱川氏が兼務)。
今回の総会前には、ファンドの非上場化案に、社外取締役のレイモンド・ゼイジ氏が賛成意向を示し、経営陣の足並みの乱れも露呈した。
6月の定時株主総会の議案を決める5月の取締役会まで2か月足らず。再建の新たな方向性を示すことができるのか。「暫定」色が強い島田社長を含めた新体制をどう構築していくのか。東芝のいばらの道が続く。
(ジャーナリスト 済田経夫)
<東芝年表>
2015年 4月 不正会計が発覚
2016年12月 米原発事業での巨額損失を公表
2017年12月 6000億円の第三者割当増資
2020年 1月 子会社で不正会計が発覚
2021年 4月 英投資ファンドCVCキャピタル・パートナーズによる買収提案が判明/車谷暢昭社長辞任、綱川智機長が社長に復帰/CVCが買収提案を事実上撤回
2021年 6月 20年の株主総会の運営が不公正だったとの調査報告書公表/株主総会で永山治・取締役会議長らの取締役再任否決
2021年11月 会社を3分割する方針を公表
2022年 2月 3分割計画を2分割に修正
2022年 3月 綱川智社長が事実上引責辞任、島田太郎氏が後任に就任/臨時株主総会で2分割計画否決
<J-CASTニュース バックナンバー>
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