「2021年の日本の出生数は過去最少、コロナ禍で少子化加速」
このニュースを目にしたとき、傍らには2021年にドイツで産まれた娘がいました。コロナ禍のなかで妊娠、出産を経験した筆者。もちろん、先行きの不安や健康上のリスクが頭をよぎることはありましたが、ドイツではそれを乗り越えられる「何か」があった。そう感じ、いま、筆をとっています。
2021年は第2子、第3子の出産が増えたドイツ
2022年2月、ドイツ連邦統計局が2021年1月から11月までの出生数の速報値を発表しました。それによると、2020年の同時期に比べて1万5000人も増加。これは、2.1%の増加に当たります。とくに顕著なのが、2月(プラス3.1%)、3月(プラス7.6%)、4月(プラス3.7%)の出生数。これは、第一波のパンデミック後、接触制限が緩和された時期に妊娠したものです。
この時期の日本と言えば、2021年1月の出生数が14%も激減。経済状況や社会情勢に対する不安により、妊娠・出産を控える動きが顕著でした。EU諸国でも、同月にスペインでは20%減少、フランスでは13%減少と、日本と同様に深刻な落ち込みを記録しています。
なぜ、ドイツでは出生数が落ち込まなかったのか。国による感染症対策や、補償制度が功を奏したことは、もちろん理由として挙げられるでしょう。しかし、筆者が当事者として感じたのは、既存の子育て支援制度の存在が大きかったということです。
前述の連邦統計局の発表でも、特に第2子(プラス2.9%)と第3子(プラス4.0%)の増加が顕著であり、第1子は0.9%の微増にとどまったとあります。この結果は、第1子出生時に制度の恩恵を受けた親が、「コロナ禍でも子供を産み育てることはできる」と判断したからにほかなりません。
男性の4割が育休取得!ドイツの子育て支援制度とは?
では、ドイツの子育て支援制度はどのようなものなのか。「日本もここを真似してほしい!」と感じる、育児休業と給付金の制度の特徴について紹介したいと思います。
まず、ドイツには「育児休業」という言葉がありません。正確には、2000年の改正により、「育児休暇(Erziehungsurlaub)」という名称を「両親時間(Elternzeit)」へと変更した経緯があります。これは、「休暇」がつくと、育児労働をレクリエーション休暇と誤解しやすく、過小評価されるとの批判があったためです。
しかも、この両親時間の取得期間は最長3年。取得後は職場への復帰が法的に保障されています。
そして、両親時間の取得により、所得が減少する人に対して支給されるのが、「両親手当(Elterngeld)」と呼ばれる手当て。日本の育児休業給付金に近い制度ですが、大きな違いは、出産前の雇用形態や所得の有無にかかわらず受給可能であるという点です。所得がない人は最低額の月額300ユーロ(約4万円)を、所得がある人は平均賃金の65%にあたる月額1800ユーロ(約23万円)を上限として受け取ることができます。
加えて、両親手当には男性の育児休業を促す工夫がされています。受給可能期間は14か月ですが、片親が受給できるのは最長12か月のみ。つまり、満額を受け取るためには、もう片方の親、多くの場合で父親が最低2ヶ月は受給期間をとる必要があるのです。
実際に男性の受給割合を見てみると、両親手当導入後、21%(2008年)から42%(2018年)へと大幅に増えています。そして、平均受給期間は2.9か月(2020年)と、日本では考えられない状況です。
職場への復帰が保障されること、収入の有無にかかわらず給付金が得られること、男性の育児休業取得を促す仕組みであること。国による制度の下支えがいかに重要か、今のような先が読めない状況だからこそ、強く感じさせられています。
実は、ドイツの出生率自体は1.53人(2020年)と決して高くはありません。過去には、現在の日本よりも低水準の1.25人(1995年)にまで落ち込んだ時期もあったほどです。だからこそ、試行錯誤を繰り返すいまのドイツの姿は、日本にも手の届かない未来ではありません。まずは「育休」という言葉から変えてみるのはどうでしょうか。
(神木桃子)