誤った判断が、企業としての評価を大きく損なう
今回の件でいえば、ユニクロにとってロシアは2010年の進出以来順調に業績を伸ばし、21年度決算ではロシア事業の大幅増収増益で苦戦が続くヨーロッパ事業の黒字化を支えるという位置づけにまで成長していました。ロシアのウクライナ侵攻で最大のライバルである同業のZARAやH&Mが早々に一時撤退を決めたことで、「ロシアでの独り勝ち」が目の前にチラついていたのか、と受け取られもするでしょう。ZARA、H&Mが相次いでロシア一時撤退を決めた時に、ひるがえって自社が取るべき道をしっかり判断すべきだったといえます。結果的にこの判断の誤りが、企業としての評価を大きく損なうことになってしまったと思います。
企業は営利団体である以上、利益を追求すること自体は決して悪いことではありません。しかしそれに先立つ倫理観というものを、ビジネスのGO・STOPの判断に必ず関与させなくては、いかに業績を伸ばし企業を成長させたとしても名企業、名経営者といわれる存在には決してなり得ないのです。名企業、名経営者である松下電器・松下幸之助しかり、ソニー・井深大しかり、ホンダ・本田宗一郎しかり、です。一代でユニクロを世界的なアパレル製造・販売企業に育て上げた柳井正氏はどうでしょうか。同時に、ユニクロの組織管理面の問題として、社外取締役を含めワンマン経営者の誤った判断を正すリスク管理の防波堤はどうだったのでしょうか。
企業が社会的存在である以上、あるべき倫理観のもとで企業経営をするということは、規模の大小を問わず経営者にとって必要不可欠なことです。今回のユニクロの例をみるに、ガバナンスが整備されているはずの大手企業でも、ワンマン体質が行き過ぎると、ときとしてガバナンス不全の状態を招くのです。結果、企業のレピテーショナルリスクを左右しかねない重大な過ちが起きてしまうのです。経営者には倫理的な観点での判断を要する事象では必ず、周囲に広く意見を求め、その意見に真摯に耳を貸す姿勢が求められるといえるでしょう。
ユニクロおよび柳井社長は、今回の件を自社の重大なガバナンス不全の事象として重く受け止め、事業における倫理的判断の際に相互牽制が正常に働くような意思決定組織を強化する必要があるでしょう。また、一般の企業経営者、とくにワンマンになりがちなオーナー経営者は、ユニクロの例を自社とは無縁な世界的大企業の他人事として見過ごすことなく、常に周囲に意見を求めつつ事業を前に進めることの大切さを、この機会にぜひとも認識してほしいと思います。
(大関暁夫)