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ごろ寝する猫の「哲学的生き方」に学ぶ?

   「哲学」といえば、驚いたことに「猫の哲学」を披露したのが、茨城大学の太田寛行学長だ。

   イギリスの政治哲学者、ジョン・グレイの著作『Feline Philosophy, Cats and the Meaning of Life』(翻訳書のタイトルは『猫に学ぶ、いかに良く生きるか』、鈴木晶訳、みすず書房)を取りあげて、こう語ったのだ。

茨城大学 太田寛行学長(公式サイト:学長メッセージより)
茨城大学 太田寛行学長(公式サイト:学長メッセージより)
「猫をめぐって、ギリシャの哲学から谷崎潤一郎の小説までも語りきる内容は壮大です。みなさんは、猫と人間の哲学の間にどんな関係があるのか?と思うかもしれません。そこで、私が考え込んだ1節を紹介します。

『人間の人生は価値によってランク付けされるのではなく、他の動物の良き生活は、人間生活により近いことを意味するわけではない。個々の動物、個々の生物には、それぞれ独自の良き生活があるのだ』

この1節から、私は、人間というものは、社会の未来だけでなく、自分自身の未来や人生の物語を思い描き、その物語の価値を他者と比べてしまうこと、またある時は、高名になった人たちが語る理論や手引きをまねて生きれば、人生の価値が上がると思い込んでしまうこと、そういう特性があるように思いました。ところが、そのような行為は、自らを翻弄するものかもしれません」

   太田学長自身、わが家の猫を見ていると、悩むことなく、食事とトイレ以外は箱の中で寝ていて、淡々と、持ち合わせた個性に従うままに生きているように思える、と述べた。猫の生き方は、この本によれば、17世紀オランダの哲学者のスピノザが提唱する「コナトゥス」という概念と結びつけられるという。説明がこう続く。

「『コナトゥス』とは(中略)『自分の存在を維持しようとする力』とあります。私の解釈では(中略)『自分という個性を維持する』ことだと思います」

「みなさん、もう一度振り返ってください。大学や大学院の卒業・修了に当たって、みなさんの『もっと沢山のことを、もっと幅広く、そしてもっと深く知りたい』という欲求はある程度満たされたと同時に、まだ物足りないとも感じているはずです。豊かに膨らみ続ける知的欲求、それは、社会に出てからも続く、終わることのない自然な欲求です。私は、それが人間の『コナトゥス』だと確信しています」

   そして、最後にこう結んだのだった。

「『コナトゥス』はみんな同じではなく、人それぞれの個性があるはずです。みなさんが持ち合わせた様々な個性で生きること、そのひとりひとりの生き方には、優劣はなく、(中略)完全・不完全という区別や差別もありません。みなさんが今生きている自分の人生を、どうぞこれからも大事にして下さい」

   我が家でゴロ寝している猫からここまでアツク論じられると、むしろ卒業生たちも「哲学」を身近に感じたことだろう。

(福田和郎)

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