「人間到る処、青山有り...男児 志を立てて郷関を出づれば」
一方、古典的ともいえる「男子のアツイ志(こころざし)」を訴えたのが、東京経済大学の岡本英男学長だ。
卒業生への「はなむけの言葉」として「人間到る処、青山有り」(じんかんいたるところ、せいざんあり)という幕末期の尊皇攘夷派の僧、釈月性の詩の一節を贈ったのだ。ちょっと長いが、見ていこう。こんなふうに、アツく語りかけた。
「男児 志を立てて郷関を出づれば
学 若し成る無くんば死すとも還らず
骨を埋むるに 豈(あ)に惟(た)だ墳墓の地のみならんや
人間 到る処 青山あり
歯切れの良い響きですが、意味も明瞭です。男児たるもの、志を抱いて故郷を離れたからには、大成するまで死んでも戻らない気概を持たねばならない。故郷だけが墳墓の地ではない。世の中のどこで死んでも、骨を埋める場所ぐらいあるのだ」
「私は昔からこの『人間到る処、青山有り』という言葉が好きでした。この言葉がもつ楽天的な響きが何よりも好きでした。世界は広く可能性に満ち溢れているというイメージが湧いてくるからです」
「この言葉は、ややもすると狭い考えや視野に閉じこもりがちな私たち人間に対して、もっと広い視野に立って自分がもつ可能性や潜在能力を信じて生きていこう、と示唆しているように思われます。そういう意味では、最近フェミニスト等によって再び脚光を浴びるようになった作家石坂洋次郎が戦前に書いた小説『若い人』の中で、皆さんのような若い人に向かって述べた言葉と相通じるものがあります」
と話を展開して、石坂洋次郎の次の言葉を紹介したのだった。
「それは『小さな完成よりもあなたの孕んでいる未完成の方がはるかに大きいものがあることを忘れてはならないと思う』という言葉です。(中略)本学を巣立つ若い皆さんに『小さな完成でなく未完成の自分を大切にせよ』と述べたいと思います」
「本学を巣立つ皆さん、人生の門出に際して、不安は誰にもあります。しかし、『人間到る処、青山有り』です。皆さんの活躍の場はいたる所にあります。環境がどのように変わろうとも、不安に押しつぶされることなく、そして何事も決して諦めることなく、自分の可能性を信じて、明るく前向きな気持ちでおおらかに歩んで行ってください」