円安で潤った輸出産業ほど「内部留保」で貯め込み
なぜ、日本だけが突出して実質賃金が下がっているのか。
上野氏は、賃金の原資となる企業の稼ぎである「付加価値」と、それを人件費に回す「労働分配率」に注目した。いずれも、1995年度の水準に比べ伸び悩んでいた。ところが、この間に配当金と社内留保(内部留保へ回す利益)の付加価値に占める割合が明確に上昇していた。つまり、従業員の賃上げに回す分を、企業は株主への配当と社内の「貯金」に回していたわけだ。
「特に付加価値増加率の高かった自動車、生産用機械では、配当金と社内留保の比率が全体よりも大きく上昇している。このことから、この間に日本全体として人件費の増加が抑えられる中で、株主への配当や内部留保の蓄積に対して優先的に付加価値の分配が行われており、とりわけ付加価値増加率が高かった輸出産業でその傾向が強かった様子がうかがわれる」
とくに、円安のプラス効果で潤うはずの輸出産業が、従業員に還元せずに貯め込んでいたというのだ。これでは、経済の好循環は期待できない。上野氏はこう結んでいる。
「賃金が持続的に上昇に向かえば、経済の好循環が起こり、予想物価上昇率の上昇や需給ギャップの改善を通じて、物価上昇率も底上げされるだろう。その後、持続的な物価上昇を受けて日銀が金融緩和の出口戦略を開始すれば、名目実効レートが上昇して実質実効レートも持ち直すことが期待される。これまで出来てこなかっただけに難易度は高いが、目指すべき理想形として念頭に置いておきたい」
(福田和郎)