日銀「指値オペ」で円安加速! なぜ?あえて物価高の痛みで賃上げ狙い?...エコノミストの指摘とは

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円安進行問題の本質は「賃金の下落」

   日銀が、あえて国民に「物価の痛み」を与えてまで賃上げを図っているかどうかは別にして、今回の円安進行問題の本質は「賃金の下落」であると強調するのは、ニッセイ基礎研究所上席エコノミストの上野剛志氏だ。

   「まるわかり『実質実効為替レート』~『50年ぶりの円安』という根深い問題」(3月30日付)のなかで、上野氏は「円の実質実効為替レート」を柱に分析を進めている。

   「実質実効レート」とはザックリ説明すると、「通貨の実力」あるいは「内外の物価格差を考慮した円の実質的な価値」のこと。その円の実質実効レートが現在、約50年ぶりの低水準にまで下落し、悪影響への懸念が高まっているという=図表2参照。これ見ると、1995年4月にピークの150.84ポイントを付けたあとは長期下落基調にあり、現在、1970年の60ポイント前後に近づいていることがわかる。それだけ「円の実力」が落ち込んでいるわけだ。

(図表2)円の名目・実質実効為替レート(ニッセイ基礎研究所の作成)
(図表2)円の名目・実質実効為替レート(ニッセイ基礎研究所の作成)

   円の実質実効レートが下落すると、経済面ではマイナスとプラスの効果が表れる。マイナスの影響としては、輸入コストが増加し、商品への価格転嫁が進まない場合には企業収益の悪化要因となる。転嫁が進んだ場合にも、消費者物価の上昇を通じて家計の実質所得・購買力を押し下げる要因になる。

   一方、プラスの影響としては、輸出コストが減るため、輸出産業が多い日本企業の収益が改善する。株価が上昇して、株を多く保有する富裕層を中心に消費が増える、といった案配だ。

   では、いったい、現在の円安進行はマイナスなのか、プラスなのか。エコノミストの間でも議論が分かれるところのようだが、「問題の本質はそこではない!」と上野氏は指摘するのだ。

「円の実質実効レート下落は(中略)『トータルで見てプラスなのか、マイナスなのか』という議論が最近よく見受けられる。例えば、日銀は今年1月の展望レポートで実質実効レート下落の実質GDP(国内総生産)への効果について検証を行い、『近年も含め、統計的に有意にプラスである』と結論づけている。しかし、『トータルでプラス』だからといって問題がないわけではない」
「たとえ、実質実効レートの下落によって輸出採算が向上して設備投資が活発化し、GDPが押し上げられたとしても、家計の実質賃金が押し下げられて消費が低迷するのであれば、バランスを欠き、経済の好循環や国民生活の改善も見込めない。実際、日本の賃金は名実ともに低迷が顕著だ」

   つまり、問題は賃金がどんどん下落している、ということだ。図表3は日本の賃金が「名目」でも下がっていることを示している。OECD(経済協力開発機構)が算出した日本の1人当たり名目賃金は、1995年から2020年にかけて4.2%減少した。この間、消費者物価(CPI)は4.0%上昇しているから、実質賃金は約8%下落したことになる=再び、図表3

(図表3)日本の賃金と物価の推移(ニッセイ基礎研究所の作成)
(図表3)日本の賃金と物価の推移(ニッセイ基礎研究所の作成)

   上野氏は、こう指摘する。

「先進主要国では、同じ期間の賃金上昇率が物価上昇率を上回り、実質賃金が大幅なプラスとなっているが、日本だけ賃金低迷ぶりが際立っている(図表4参照)。また、我が国では、この間に社会保険料が大きく増加しているため、手取りベースの賃金はさらに減少していることになる」
(図表4)主要国の賃金・物価の変化。日本の賃金だけが物価を下回る(ニッセイ基礎研究所の作成)
(図表4)主要国の賃金・物価の変化。日本の賃金だけが物価を下回る(ニッセイ基礎研究所の作成)
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