「日銀の神通力も落ちた」...
しかし、エコノミストの間では、今夏の参議院選挙を前に何とか物価高を抑えたい政府と、金融緩和を続けたい日銀との間で経済・金融政策めぐり齟齬が生じており、日銀が追い込まれ始めた、という見方が多い。
日銀が始めた指値オペは円安をますます加速されるリスクがあり、「日銀の神通力(影響力)も落ちた」と批判するのは野村総合研究所エグゼクティブ・エコノミストの木内登英氏だ。
木内氏のリポート「長期金利上昇と円安進行のディレンマに陥り追い込まれる日銀と短観の注目点」(3月31日付)の中で、日銀が置かれた現状をこう分析した。
「3月29日から31日の連続指値オペを決めてもなお、10年国債金利は目標レンジの上限であるプラス0.25%近くに高止まりし、その影響で超長期の金利も上振れしていることから、日本銀行はすべての手段を総動員して、長期金利の上昇を容認しない姿勢を示した」
「最後の手段、伝家の宝刀とも言える連続指値オペを打ち出してもなお、長期金利が思ったように下がらないことに慌てて、日本銀行は手持ちの手段を総動員したように見える」
木内氏は、日銀はディレンマに陥りはじめている、と指摘する。
「長期金利が思ったよりも下がらないのは、いずれ日本銀行は長期金利の上昇を容認するとの観測が燻(くすぶ)っているから」であり、「米国では3月に利上げを決めた米連邦準備制度理事会(FRB)が、この先利上げのペースを加速させるとの観測が強まっている」。その過程で米国の長期金利は一段と上昇する可能性が高い。
そして、「その中で、日本銀行が10年国債金利の上昇を厳格に抑える政策を維持すれば、ドル円は1ドル130円を大きく超えて、どこまで円安が進むか分からない状況に至るリスクが出てくる」と警告するのだ。
さらに木内氏が懸念を示すのは、政府VS日銀の関係悪化だ。
「黒田総裁は、『円安は全体としては日本経済にプラス』との発言を繰り返しているが、原油高など物価高の弊害を強く感じている政府、産業界、国民はこの見方に違和感を持ち、円安を容認する日本銀行への批判を潜在的に高めているだろう」「政府・与党は、物価高を助長する『悪い円安』が続けば、夏の参院選にも悪影響が及ぶことを警戒し始めているのではないか」
「また、円安と金融政策を巡って、政府と日本銀行の関係がギクシャクすれば、政府が『より柔軟な政策姿勢を持つ人物が新総裁に適任』と考えるなど、来春の日本銀行の総裁人事にも影響が出てくる可能性がある」
と、指摘した。