企業を取り巻く環境が変化して、オンライン上での情報発信は存在感を高めている。なかでも2021年6月の法改正によって、オンラインで完結するバーチャル株主総会が実施できるようになった。
以来、その導入を検討する企業も増えているが、そもそもどうやって実施すればよいかわからない、という声も少なくない。
そんな疑問に答えるウェビナー「未経験から始めるバーチャル株主総会」が2022年3月30日に開催された。バーチャル株主総会の開催プラットフォーム「HALL+」を手掛けるソニーPCLの金子敏明(かねこ・としあき)さんらが登壇し、企業と株主との対話を促すオンラインでの株主総会の需要、事前準備が大切であることなど、開催に向けてのポイントを語った。
プラットフォーム上では議決権行使も可能
オンラインでの株主総会の取り組み状況について、ソニーPCLが行った、株主総会の運営に携わったことのある国内上場企業の株主総会担当者205人を対象とした調査(※)では、約56.6%が「検討中」、約24.9%が「実施済」という回答で、あわせて約81.5%が導入に前向きなことがわかった。
(※)直近2年に株主総会の運営に関わったことがあり、株主総会をオンラインで開催できるようになったことを知っていると回答した上場企業の株主総会担当者への事前調査。2022年1月24日、ウェブで実施。
また、株主総会のオンライン開催を検討したことのある上場企業の株主総会担当者100人に行った実態調査(2022年1月24日~26日、ウェブで実施)では、導入の経緯として、「コロナ対策」(96.0%)、「2021年月の法改正を受けての必要性」(96.0%)、「サステナブルな会議運営をするため」(88.0%)が挙げられているが、担当者の95%は導入に向けて「課題で感じていたことがある」という調査結果も出た。多かった理由は、「情報収集が大変、難易度が高い」(48.0%)、「自社に適切なタイプがわからない」(41.0%)というものだ。
こうした背景もあって開催された3月30日のウェビナーでは、まずはオンラインでの株主総会のメリットについて、ソニーPCLのビジネスプロモーション部、長谷川賢(はせがわ・さとし)さんが紹介した。
長谷川さんによると、株主にとっては、通信環境が整っていれば、遠隔地からでも参加できるのがメリットだ。一方、持続的な成長を目指して、株主との対話を大事にしたい企業にとっては、チャットなどの機能によって質疑応答に答えるなど、インタラクティブ(双方向)コミュニケーションにつながる。また、プラットフォーム上の機能を使えば、株主は議決権の行使が可能となる。企業にとっても議決権の行使率を上げることにつながりそうだ。
オンラインで株主総会を開催するにあたって、いくつかのプラットフォームはあるが、ソニーPCLのビジネスプロモーション部・統括部長の金子敏明さんは、自社のプラットフォーム「HALL+」の特長として、次の3つを挙げた。
それによると、(1)リアル株主総会と同時開催の場合、タイムラグが少ない「低遅延」 (2)たくさんの株主が参加しても同時接続時が可能な「安定性」 (3)視聴者の視聴環境にあわせて動画のビットレートを自動変更し、動画が途切れにくい「アダプティブ・ビットレート配信」。こうした特性を生かして、スムーズな株主総会を実現していく。ちなみに同社は、リアル株主総会の運営会社として、25年におよぶ知見、ノウハウが多いのも強みだという。
一方で、オンライン開催で気をつけるポイントは何か――。証券代行を通じて株主総会に多く関わってきた三井住友信託銀行 執行役員 証券代行部長の佐藤正克(さとう・まさかつ)さんが、次のように話した。
「動画配信によって企業側と株主をインタラクティブにつなぐことができるが、企業側は事前の準備が欠かせません。また、仮にトラブルが起きた場合、どう進めるかについてのプランを持つことも大事です」(佐藤さん)
また、株主総会はこれまで通りのリアル開催か、オンラインに移行していくのか、あるいは双方のハイブリッドという手段もあるが、将来の展望について、佐藤さん、金子さんはこう指摘した。
「どちらがよいとはまだいいきれません。コロナ禍によって、オンラインでの株主総会が進みましたが、株主がどう思うか、ということもあるでしょう。しかし、オンラインでの株主総会では、より多くの人が参加できます。(こうしたメリットなどを踏まえ、)これから各社の見極めが進むのではないかと思います」(佐藤さん)
「法改正によってオンラインオンリー(オンラインだけで実施される)株主総会が実施できるようになり、株主総会のバーチャル化(オンライン化)が進むかと思われましたが、リアルな株主総会は大事だ、という揺り戻しも少なからずあります。しばらくは、どちらかに偏ることはないのではないでしょうか」(金子さん)