上司と部下の関係でギャップを感じたことはありますか?
2023年4月に心理学部を開設予定の龍谷大学(京都市)では、新年度を前に企業の上司・部下1000人を対象として、両者の関係性や世代間ギャップについてのアンケート調査の結果を2022年3月30日に発表した。
それによると、上司も部下も半数近くは「ギャップ」を感じていて、部下を理解したいが踏み込みづらい「片想い上司」と、仕事とプライベートに線を引く傾向にある「仮面部下」の実態が見えてきた。両者が良好な関係を築くためにはどうしたらいいのだろうか。
相手を受け入れる「全肯定」の姿勢大事
企業に勤める部下(20~30歳)と上司(45~60歳)1000人(部下500人、上司500人)を対象とした今回の調査(2022年1月11日~13日実施)では、職場の上司/部下に「ギャップを感じているか」と聞いたところ、部下の51.6%、上司の44.8%が「とても感じている」「やや感じている」という回答だった。では、なぜギャップが生まれるのか、その理由を聞くと、以下のような結果だった=図表参照。
部下のトップ5
「年齢が違うから」(40.4%)、「立場が違うから」(40.0%)、「生まれ育った時代背景が違うから」(28.0%)、「『常識』の考え方が違うから」(27.4%)、「コミュニケーションにすれ違いがあるから」(21.8%)
上司のトップ5
「立場が違うから」(46.8%)、「『常識』の考え方が違うから」(34.4%)、「コミュニケーションにすれ違いがあるから」(27.0%)、「年齢が違うから」(25.8%)、「生まれ育った時代背景が違うから」(23.0%)
自由回答を見ると、上司が部下に感じているギャップは、
「打ち合わせしていて、不服の顔を見せるが意見を言わない」
「反応がうすく真意が分かりづらい」
「考え方がクール」
「理屈ばかり語り行動を起こさない」
といった、部下の反応のうすさに困惑しているようだ。加えて、
「自分の仕事範囲に、線引きをしてしまう」
「言われていないからやらないというスタンス」
「仕事に対する姿勢が受動的」
などの部下の割り切った姿勢には、「物足りなさ」を感じているようだ。
一方、部下が上司に感じているギャップは、
「話題のジェネレーションギャップ」
「年齢の差からくる若い頃の話」
「意見を言い合える雰囲気でない」
「例え話がわからない時がある」
など、上司との「話しづらさ」を感じている様子。ほかにも、
「プライベートでの仕事の話などのオンオフの切り替え」
「親睦会や飲み会等の必要性。上司は余程の理由がない限り参加を求めるが、業務時間外であることや翌日の仕事にも響くのであまり必要だと思っていない」
「仕事には熱意や全身全霊で取り組む姿勢が必要だと上司は思っているが、私はそう思わない」
など、仕事とプライベートの境目が曖昧な上司への違和感があるらしい。
ちなみに、「上司、部下との価値観が合わないとあきらめているか」という質問をしたところ、上司の69.8%、部下の68.8%が「とても感じている」「やや感じている」という結果も出ている。
この調査結果を受けて、臨床心理士で、龍谷大学心理学部に2023年度から就任する水口政人(みなくち・まさと)教授は、「組織の良好な関係構築には、良質なコミュニケーションが不可欠」として、次のようにコメントしている。
「質を高めるために『傾聴スキル』を学ぼうとする人がたくさんいますが、私はまず『人間に対するスタンス』を考えることが大事だと思います。それは、相手の言動や態度をそのまま受け入れる『全肯定』の姿勢です」「相手の言動が『正しい』かどうかを判断するのではなく、「相手がそう発言をするのも必然だ』と『全肯定』するスタンスが大切です。研修では『前向きなあきらめ』と言い換えると、さらに腹落ちしてくれます」(水口教授)
良好な関係構築に向けて水口教授は、週1回、10分間の「1on1ミーティング」を勧める。ポイントは「い・ざ・か・や」だ。
「1on1 ミーティングでは、まず聞くことを目的に「い:意見しない」「ざ:遮らない」ことを心がけてください。ビジネスモードがオンの状態だと、相手の話の課題を発見し、話を遮って自分の意見を言ってしまいそうになります。よかれと思ってアドバイスしたつもりでも、意見の相違が生まれる要因ですので控えましょう。つまり、問題を「か:解決しない」姿勢でいることが最も重要なことなのです。また、部下が話したがらず、上司が話し過ぎてしまうことも起こりがちです。具体的に「や:8分以上は部下が話す」と決めておきましょう。これを実践すれば3か月で劇的に変わるはずです」(水口教授)
コミュニケーションにおける心理学の有用性として水口教授は、上司も部下も互いに好意的な状態の場合、自己開示が多くなる、と指摘。「心理的安全性が高い組織になるという研究がたくさんあります。心理的安全性が高い組織は生産性が高まり、結果が出ている組織では構成員の行動や態度も前向きになっていくといった好循環が生まれます」と、上司と部下の関係がよくなることへの期待を寄せた。
なお、新設する龍谷大学心理学部は、対人支援のコミュニケーション・スキルを身につける場として、現代社会の心理的諸課題に向き合うとともに、ウェルビーイングな社会に向けた共創人材の育成を目指している。