大学卒業式「心に響く学長の挨拶」はコレ! 会社ウォッチ編集部が独断で選ぶ珠玉の言葉の数々【1:平和への願い編】

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   2022年3月、多くの大学で卒業式が行われて、卒業生たちが巣立っていった。

   コロナ禍、ウクライナ危機という未曽有の歴史の大転換のさなか、それぞれの大学の学長・総長たちは、社会の荒波に飛び込んでいった教え子たちにどんな激励のエールを贈ったのか。

   どう社会と向き合い、どうやって生きていくか。教え子たちを思う熱情にあふれた言葉の数々。J‐CASTニュース会社ウォッチ編集部が、独断で選んでみた。

  • 学長・総長たちが卒業生に贈った言葉とは(写真はイメージ)
    学長・総長たちが卒業生に贈った言葉とは(写真はイメージ)
  • 学長・総長たちが卒業生に贈った言葉とは(写真はイメージ)

マザー・テレサ「小さなことを大きな愛をもって行うだけ」

広島大学 越智光夫学長(公式サイト:広島大学長からのメッセージより)
広島大学 越智光夫学長(公式サイト:広島大学長からのメッセージより)

   昨年(2021年)は新型コロナウイルスに触れる挨拶が多かったが、今年はロシアのウクライナ侵攻に時間を割いて、この戦禍にどうやって向き合っていくかをトクトクと語りかける人が多かった。

   被爆地にある広島大学の越智光夫学長は、こう切り出している。

「『平和を希求する大学』である広島大学は、ロシアによるウクライナ侵攻への抗議と平和的解決を求める学長メッセージを、全国の大学に先駆けて発出し、人道支援のための学内募金を開始しました」
「ちょうど今、避難民と周辺国支援のため、本学大学院医系科学研究科の久保達彦教授を団長とするJICAの調査団がモルドバに派遣され、緊急人道支援などのニーズ調査に当たっています」
「今、国際社会に求められているのは、武力ではなく、英知をもって打開の道を探し続けていくことではないでしょうか。皆さんも戦火に巻き込まれた人たちの心に寄り添い、平和のために自分は何ができるかを考えて行動していただきたいと、切に願っています」

   そして、どのような道に進むにせよ、大切なことはそれぞれの場所で社会に貢献すること。そのうえで、現状に甘んじることなく、高みに向かってチャレンジして、「皆さんの中から、世界や日本のリーダーとして活躍する人が出てくれることを期待しています」と訴えた。

   続く言葉もすばらしい。「強く、気高い心を持っていれば、どんな苦難に直面しても、必ず乗り越えていくことができる」として、インドで貧困や病気に苦しむ人々の救済に生涯をささげ、ノーベル平和賞を受賞したマザー・テレサの次の言葉を贈ったのだった。

「世の中の常識に矛盾することを、決して恐れてはいけません」
「私たちは、大きいことはできません。小さなことを大きな愛をもって行うだけです」

「こんな時代だからこそ、人と人の和解を探る」

九州大学 石橋達朗総長 (公式サイト:総長メッセージより)
九州大学 石橋達朗総長 (公式サイト:総長メッセージより)

   九州大学の石橋達朗総長は、長年、アフガニスタンで医療と人道支援に献身的に携わりながら2019年12月、現地で凶弾に倒れた故・中村哲医師(享年73)を取りあげている。中村氏は九州大学のOBだ。帰国するたびに、同大の学生たちに講義や講演をしてきた。

「中村先生は21世紀の、科学技術により高度に進歩した社会、国境を越えて発展する経済、効率と利便性が追求された日々の生活などを『欲望の自由』『科学技術の信仰』と危惧しておられました。近年、世界は地球温暖化による気候変動で自然災害が増え、各地で紛争が絶えず、感染症の流行に怯え、今や地球規模で様々な社会問題がでてきています」

   そして、中村医師の著書『天、共に在り』の結びの文章を紹介した。

「人も自然の一部である。それは人間内部にもあって生命の営みを律する厳然たる摂理であり、恵みである。科学や経済、医学や農業、あらゆる人の営みが、自然と人、人と人の和解を探る以外、我々が生き延びる道はないであろう。それがまっとうな文明と信じている」

   石橋総長は卒業生に、「人と人の和解を探る以外、我々が生き延びる道はない」という中村医師の遺志を継ぎ、それぞれの場所で活躍してほしいとこう訴えたのだった。

「世界は分断の方向へと向かっているようにも思えます。この時代に、九州大学を卒業される皆さんには、社会を新しい良い方向へ導く一つの力になってほしいと思っています。グローバルシチズンシップという言葉があります。『誰もが地球社会の一員であり、それに参画する責任を持った市民だという意識』です」
「今、この時に、人生の新しい一歩を踏み出すことを、『こんな時代に』と思うのではなく、『こんな時代を経験した』ということを力にして、この地球社会の一員、グローバルシチズンであるという意識を大切に、新しいそれぞれの活躍の場への一歩を踏み出してください。皆さんの希望ある未来を信じ、健闘を祈ります」

「天までも味方につける先導者を目指そう」

慶応義塾大学 伊藤公平塾長(公式サイト:塾長メッセージより)
慶応義塾大学 伊藤公平塾長(公式サイト:塾長メッセージより)

   慶応義塾大学の伊藤公平塾長は、自分が慶応義塾大学を卒業した1989年、天安門事件が起こり、ベルリンの壁が崩壊した激動の年に見舞われた。だが、それ以上に大変な年に皆さんは卒業すると呼びかけた。

「皆さんが経験したコロナに続くウクライナ危機は、実に桁違いの事象であり、次元が全く違う歴史の一大転換につながるものだと、私は感じています。今ほど、私たちひとり一人が、先導者としての自覚と行動と責任を全うすることが大切なことはありません」

   そして、「先導者」には3つの条件があると、こう語りかけた。

「1つ目は常に挑戦する、ということです。現状に満足して自分の幸せだけを追求する利己主義に陥ると社会は後退します。新しいことに挑戦して、その中で社会の先導を意識するということです。『それは先導につながるか?』と自ら問いかけてください。そして、挑戦を支えるのは常に学ぶ力、まさに『学問のすすめ』です」
「2つ目は世界に出る、ということです。自分の判断や行動が、今後の社会全体にどのような影響を及ぼすか。良い影響と悪い影響、さまざまなシナリオを想像するためには、広い世界を知らなければなりません。広い世界に踏み出して、世界レベルの知見とネットワークを有する先導者を目指しましょう」
「3つ目。これが先導者として一番大切なことかもしれません。『祝福された先導者』になってほしいということです。『この人と一緒なら楽しく自然に新しいことに挑戦できる』『この人と一緒なら、明るい家庭、学校、会社、地域、国、世界が作っていける』と思ってもらえる人間を目指しましょう」

   「祝福された先導者」について、さらに詳しくこう説明した。

「高い志を持って誠実に人生を生きる。その裏では、最悪の事態も想定して、さりげない準備を怠らない。家族や友人が応援してくれることは大切なことですが、(中略)初対面でも、この人と一緒に仕事したい、活動をしたいと思われる人。大げさにいうと天までも味方につける人を目指そうということです。これこそが慶応義塾大学が目指す気風であり、私が考える『祝福された先導者』であります」

「『世界は、幸せか』と問い続け、応え続けていこう」

武蔵野大学 西本照真学長(公式サイト:学長あいさつより)
武蔵野大学 西本照真学長(公式サイト:学長あいさつより)

   武蔵野大学の西本照真学長は、式辞の大半をウクライナ危機に費やした。そして、仏教系の大学らしくブッダの平和主義の教えを説いた。

「『ブッダの真理のことば 感興のことば』(中村元訳、岩波文庫)「第10章 暴力」の一節には次のように述べられています。

すべての者は暴力におびえ、すべての者は死をおそれる。
己(おの)が身をひきくらべて、殺してはならぬ。殺さしめてはならぬ。
すべての者は暴力におびえる。すべての(生きもの)にとって生命は愛しい。
己が身にひきくらべて、殺してはならぬ。殺さしめてはならぬ。


自分自身の身に置き換えて考えれば、他者の生命を脅かし奪い去る暴力は容認することはできません」

   そして、こう呼びかけた。

「卒業式の晴れの場で、コロナや地震や戦争などの話をする必要があるのかと思われるかもしれませんが、皆さんは、『世界の幸せをカタチにする。』というブランドステートメントを掲げた武蔵野大学の卒業生として本日、この場に臨んでいます。そうであればこそ、このような状況をしっかりと見据えた上で、その解決を目指していく、ハピネス・クリエイターとしての志を胸に世界に巣立っていただきたいのです」

   西本照真学長は、最後、同大学の掲げるメッセージであり、キャンパス内にもポスターが張り巡らされているという「2050年のあなたへ。」を読み上げて、卒業生への餞(はなむけ)にした。

「2050年のあなたへ。
20歳の学生であるあなたが50歳になる、2050年。あなたを取り巻く世界は、どんな世界だろうか。
気候変動による異常気象、災害が頻発し、資源や食料を奪い合う国家間の紛争が多発し、あなたを含む、多くのいのちが危機を迎えている。今の私たちはそんな可能性を決して否定できずにいる。
人間が生きるということそのものが、動植物のいのちをいただくことで成り立っているように、生きとし生けるものが繋がっている世界。『自分さえよければ』が誰かから生じれば、その繋がりごと壊れてしまう。
(中略)困難はある。でも武蔵野で学んだ者はあきらめない。
『世界は、幸せか』と問い続け、応え続けていく。
私たちにはできる。
世界は、幸せか」

(福田和郎)

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