お菓子などの原材料として、長年愛されているカカオ。「♪チョコレートの明治」で知られる食品メーカー・明治が、カカオにおけるサステナブルな取り組み強化に意欲を見せている。
2022年3月28日に行われた「明治2022Newアクション」の第1弾発表会では、カカオ商品を先導する企業の「責任」として、サステナブルなカカオ豆の調達、これまで活用されていなかったカカオの部位を使った商品開発などに取り組む考えを明らかにした。登壇した松田克也社長は、「歴史に一石を投じ、新しい時代を作る」と抱負を語った。
2026年に「サステナブルカカオ豆」調達比率100%へ
「栄養価値で社会へ貢献する志は、創業から100年以上にわたって目指した、我々の原点です。『栄養報国』の精神で、高級なエネルギー源であった砂糖を、手に取りやすいお菓子として提供することで、国民全体の健康増進と、食を楽しむ社会の実現に貢献して参りました」(松田氏)
明治グループは2021年5月、グループスローガンに「健康にアイデアを」を掲げた。明治としても、企業の方向性を「栄養ステートメント」として明文化するなかで、栄養から社会課題を解決すべく、新たなプロジェクトを立ち上げた。
その第1弾が、「カカオ」をめぐるアクションだ。カカオの実を余さず使うホールカカオでの活用、バリューチェーンの進化、情報発信の3方向から、「抜本的な構造改革」に着手したという。
カカオ生産地域の多くは、森林減少や児童労働、栽培技術の周知不足などの社会課題を抱えている。しかし「カカオベルト」と呼ばれる産地は、消費国と物理的な距離が遠いため、実態が見えにくい現状がある。
現在、業務用に加工されたチョコレートから菓子づくりをするメーカーも多いが、明治では豆から一貫した製造を大切にしている。そこで明治が06年から行っているのが、社員が原産国へ赴き、技術習得や生活を支援する「メイジ・カカオ・サポート」だ。
現在9か国で行われているこの試みを発展させ、持続可能なカカオ豆生産の実現に向けて取り組むのが、次のアクションとなる。農家支援を行った知識で生産された「サステナブルカカオ豆」の調達比率を現在の40%程度から、26年度までに100%に引き上げる目標を掲げている。今回の発表会には、各国の大使館関係者も招かれるなど、注目度が高かった。
「カカオの未来を拓く」強い決意
日本での主流なカカオ製品が、チョコレートだ。チョコレートは、カカオの実のうち、カカオ豆(種)の中にあるカカオニブ(胚乳)やジャーム(胚芽)をもとに作られる。だが、実は、これらは実全体の約10%でしかない。残りの部分は、カカオハスク(豆の皮)が飼料や肥料、燃料などに、カカオパルプ(果肉)は豆発酵時のエネルギー源として使われている。そして、カスカラ(殻)のように、土へ還すしかない部位もあり、実全体として見ると、ほとんど有効活用されていない。
「カカオは、フルーツなんです。カカオには可能性が、まだまだたくさん詰まっています。スローガンは『ひらけ、カカオ。』。5300年もの人類とカカオの歴史に一石を投じ、新しい時代を作ることが、明治の責任であると考えています」(松田氏)
カカオの実を余さず使うことを意味する「ホールカカオ」での活用に向け、すでに研究開発は始まっている。具体的には、カカオニブから抽出された「カカオフラバノールエキス」の活用。これは、チョコレートのイメージとは異なり、鮮やかなピンク色だ。これを、凍らせてソルベとして試験販売し、22年度中の一般販売を計画している。同じくカカオニブから生み出された「カカオグラニュール」、「ホワイトカカオミルク」といった新素材も、生産国をまじえた産学連携での研究開発が進められている。
食品以外への活路も見出す。異業種との連携で、未活用部位を配合したタンブラーや家具といった商品開発にも意欲的だ。この日、松田氏の前に置かれた「演台」も、カカオハスクを配合した家具だと紹介された。新素材や原料の活用で得た収益と、既存の運営資金や寄付をもとに、「カカオ・サポート基金」を設立し、原産地への支援をさらに広げていく計画だ。
「明治ミルクチョコレート」の発売(1926年)から、まもなく100年の節目を迎える。「およそ100年間、恩恵を受けてきたカカオへの恩返し」だと位置づける松田氏の発言からは、強い決意が読み取れた。
「何十年間も日本人は、『カカオ=チョコレート=茶色』で来ている。(豆を)絞ると、ピンク・赤になる。『それがカカオです』と言っても、なかなか理解できないと思いますので、しばらくは『カカオの未来を拓くんだ』と、概念を壊したい。それが市民権を得た段階で、売上という概念を持っていきたい」(松田氏)