「カカオの未来を拓く」強い決意
日本での主流なカカオ製品が、チョコレートだ。チョコレートは、カカオの実のうち、カカオ豆(種)の中にあるカカオニブ(胚乳)やジャーム(胚芽)をもとに作られる。だが、実は、これらは実全体の約10%でしかない。残りの部分は、カカオハスク(豆の皮)が飼料や肥料、燃料などに、カカオパルプ(果肉)は豆発酵時のエネルギー源として使われている。そして、カスカラ(殻)のように、土へ還すしかない部位もあり、実全体として見ると、ほとんど有効活用されていない。
「カカオは、フルーツなんです。カカオには可能性が、まだまだたくさん詰まっています。スローガンは『ひらけ、カカオ。』。5300年もの人類とカカオの歴史に一石を投じ、新しい時代を作ることが、明治の責任であると考えています」(松田氏)
カカオの実を余さず使うことを意味する「ホールカカオ」での活用に向け、すでに研究開発は始まっている。具体的には、カカオニブから抽出された「カカオフラバノールエキス」の活用。これは、チョコレートのイメージとは異なり、鮮やかなピンク色だ。これを、凍らせてソルベとして試験販売し、22年度中の一般販売を計画している。同じくカカオニブから生み出された「カカオグラニュール」、「ホワイトカカオミルク」といった新素材も、生産国をまじえた産学連携での研究開発が進められている。
食品以外への活路も見出す。異業種との連携で、未活用部位を配合したタンブラーや家具といった商品開発にも意欲的だ。この日、松田氏の前に置かれた「演台」も、カカオハスクを配合した家具だと紹介された。新素材や原料の活用で得た収益と、既存の運営資金や寄付をもとに、「カカオ・サポート基金」を設立し、原産地への支援をさらに広げていく計画だ。
「明治ミルクチョコレート」の発売(1926年)から、まもなく100年の節目を迎える。「およそ100年間、恩恵を受けてきたカカオへの恩返し」だと位置づける松田氏の発言からは、強い決意が読み取れた。
「何十年間も日本人は、『カカオ=チョコレート=茶色』で来ている。(豆を)絞ると、ピンク・赤になる。『それがカカオです』と言っても、なかなか理解できないと思いますので、しばらくは『カカオの未来を拓くんだ』と、概念を壊したい。それが市民権を得た段階で、売上という概念を持っていきたい」(松田氏)