学歴ばかりが重要視される社会は、今や昔。当然ながら、現代では、個性やコミュニケーション能力など、あらゆる面で「社会を生き抜く力」が必要だ。そのため、教育にも変化が求められている。では、受験合格を目指す「塾」の存在はどう変わっていくのか?
そんななか、2022年に創立60周年を迎えた九州の大手塾「全教研」は、60周年のメッセージとして「自己実現のための学び」を掲げ、これからの時代に必要な学びを提供したいと意気込んでいる。同社は2月中旬、60周年記念CM「だといいな篇」をオンエアして話題を集めた。
全教研では合格ももちろん大事だが、子どもたちが受験を通して成長していく過程を大切にしたいという。オンライン授業など勉強方法も多種多様になる中、これからの塾、そして、教育の新たな在り方とは――。代表の堀口宏吉(ほりぐち・ひろよし)さんに話を聞いた。
勉強は「人が変われる」手段のひとつ
2021年4月、全教研の社長に就任した堀口さんが、教育の世界に足を踏み入れたのは父親の影響が大きいという。
堀口さんの父親は「ど」が付くほどの熱血教師だったそうだ。毎日のように、ヤンチャな生徒を自宅に招き入れては、生徒と良く話し、気持ちを理解し、そのうえで更生させていった。そして、自分が見てきた教育者としての父親の姿が、「勉強が全てではない」という堀口さんの教育者としての下地として、今も強く根付いている。
堀口さんは「勉強は1つの手段に過ぎない」とよく口にする。その言葉の背景には、ご自身のこんなエピソードがあったからだ。
学生時代の堀口さんは、学校の先生に毎日持ち物検査をされるような生徒だった。しかしある時、一度だけ本気で勉強して先生を見返してやろうと考え、猛勉強の末にテストで90点を取った。その時から、その先生の堀口さんを見る目が変わるようになった。「たかだか勉強で、こんなに自分の評価が変わるのか」と、「人が変われる」手段のひとつとして勉強があることをその時に知ったという。
その経験から今でも、教え子たちに「勉強をすれば自分の世界が変わるのではなく、勉強『でも』自分の世界を変えるきっかけになることができる」ということを学んでほしいと考えている。勉強は、スポーツと違い、類稀なる才能や特別な能力は何ひとつ必要なく、どんな人でも手頃に全力で取り組めて結果を求めやすい。打ち込むことにより、自分に新たな自信や勇気が生まれて、また次の目標へといく活力になる――こういうことを、子どもたちに伝えること、それが堀口さんの考える教育(勉強)の根本的な役割のようだ。