「週刊東洋経済」「週刊ダイヤモンド」「週刊エコノミスト」、毎週月曜日発売のビジネス誌3誌の特集には、ビジネスパースンがフォローしたい記事が詰まっている。そのエッセンスをまとめた「ビジネス誌読み比べ」をお届けする。
円安進み、輸入物価が上昇する日本
「週刊エコノミスト」(2022年4月5日号)の特集は、「ウクライナ侵攻 戦時日本経済」と題して、ウクライナ侵攻による日本経済への影響を検証している。
3月22日に円相場は6年1か月ぶりに1ドル=120円まで円安が進んだ。円安が進めば、輸入物価が上昇する。エネルギーと食料の自給率が著しく低い日本には、「先行き厳しい経済状況が待ち受けているという認識が広がりつつあるからだ」と巻頭記事は書いている。
バイデン米大統領は、ロシア産の原油、天然ガス、石炭の輸入禁止を決定。欧州や日本にもエネルギーのロシア依存を低減するよう働きかけている。日本はLNG(液化石油ガス)の9%近くをロシアから輸入している。米国の決定を受け、今年2月に約26ドル(百万英国熱量単位当たり)だった日本向けのLNGスポット価格は約85ドルにはね上がった。
その後、30ドル前後に下がったが、1年半前の4.5ドルという水準に比べると、格段に高値だ。日本の電力・都市ガス会社はスポット価格に比べて格段に安い長期契約に基づく調達が9割を占めるが、原油価格に連動する価格体系のため、原油高が続けば料金の上昇圧力になるのは確実だ。
東京電力エナジーパートナーの4月分の電気料金(平均モデル)は8359円で、1年前に比べ、1823円も値上がりする見込みだ。戦争に伴う燃料費上昇が本格化する6月以降はさらなる電気代の値上がりも懸念される。
食料品の値上がりも必至だ。小麦の生産量はロシアが世界3位、ウクライナは8位。日本の小麦の輸入は米国、カナダ、オーストラリア産で占められているが、玉突きで日本向け価格も上がりそうだ。
そもそも小麦価格は、今回のウクライナ侵攻が始まる前から、米国やカナダの不作が原因で上昇していた。政府は輸入小麦の売り渡し価格を昨年10月に19%引き上げ、今年4月からさらに17%引き上げる。食パンやうどんの製品価格は上がり続けそうだ。
みずほ銀行の唐鎌大輔チーフマーケット・エコノミストは「このまま経常赤字が続けば、日本経済にとって一大事になるかもしれない」とコメントしている。
異次元の金融緩和政策を続ける日本銀行の黒田東彦総裁の誤りを指摘するのは、加藤出東短リサーチ・チーフエコノミストだ。異次元緩和政策による超低金利環境は、日本経済の新陳代謝をかえって低下させているという。企業倒産件数は減り、失業率は世界有数の低さになったが、いわゆるゾンビ企業が多数残った。それにより、薄利多売のビジネスがはびこり、優良企業もそれに巻き込まれて賃金の低迷が続いた。
また、異次元緩和は政府の国債発行を容易にしたため、財政規律が緩んだ。日銀が金利水準を引き上げたら、政府は利払い費増大に苦しむため、出口戦略は一層難しくなる。
円安を抑えようと仮に日銀が、マイナス金利解除や10年金利誘導の5年への変更(事実上の長期金利引き上げ)を実施したら、市場金利の制御は困難になる恐れがある、と指摘している。
今後の政局について、与良正男・毎日新聞論説室専門編集委員は、「経済政策も日銀総裁人事も岸田首相は『ミスター検討中』」と手厳しい。看板政策として掲げた「新しい資本主義」の具体策はなく、「聞く力」だけでかわそうとする時期はとうに過ぎたというのだ。
自民党からも「実は何も考えてはいないのではないか」という酷評まで出ているそうだ。日本経済が深刻な局面にさしかかっている今、リーダーシップの真価が問われている。
暴落時こそ、株を買う絶好の機会
3月29日発売の「週刊ダイヤモンド」(2022年4月2日号)は、「暴落時こそ仕込む! 日米強い株」と題した特集を組んでいる。長い目で見て成長を続けそうな日米の有望株を厳選するとともに、人気銘柄の戦略やリスクを分析している。
「暴落は、目を付けた会社の株を買う絶好の機会である。調整は素晴らしい会社の株をバーゲン価格まで下げてくれる」と伝説的投資家、ピーター・リンチ氏の言葉を紹介している。
高成長が続くなら暴落時こそ買いの好機だが、割安かどうかを見極めるのが難しい。ゴールドマン・サックス証券出身の中村岳嗣氏が開発した投資判断支援の新ツール「propro(プロプロ)」を使い、人気銘柄の割安度を判断している。
割安と判定されたのが、MonotaRo、ジャストシステム、スノーピークなど。一方、割高と出たのがリクルートHD、ベネフィット・ワンなどだ。
「propro」には、機能の一つに「よい会社」を見極める12のチェックリストがある。たとえば、成長余地が大きい会社か、商品・サービスが本質的な付加価値を持つ会社か、競争に強い会社か、かけがえのない会社か、などの項目が並ぶ。これらを投資判断に活かすことが大切だ。
東証上場企業の株価上昇率トップ10を見ると、ベイカレント・コンサルティング、SHIFT、ラクスなど、デジタルトランスフォーメーション(DX)関連企業が並ぶ。そこから、株価商社のカギは「IT人材獲得」と結論づけている。一方、SaaS(サービスとしてのソフトウェア)関連では、株価が急落した企業が目立つ。
金融所得課税など、政策が「市場に優しくない」と不評の岸田政権。そんな逆風下で逆張り的な恩恵が期待できる上場企業23社を、みずほ証券の菊地正俊チーフ株式ストラテジストのチームが明らかにしている。中低所得者を主なターゲットにする神戸物産、しまむら、オープンハウスなどだ。さらに保育士が介護士の賃上げを行う方針から、介護・教育事業を手掛ける学研HDやベネッセHDなどが名を連ねている。
年明けから軟調な展開の米国株式市場だが、大和証券の壁谷洋和チーフグローバルストラテジストは、「長期的な米国株の優位性は今後も変わらないだろう」として、アップル、マイクロソフト、テスラなど8銘柄に注目。また、マネックス証券の岡元兵八郎チーフ・外国株コンサルタントは、GAFAMとテスラ、ウォル・ディズニー、ゼネラル・ダイナミクスの8銘柄。SBI証券の榮聡シニア・マーケットアナリストは、GAFAMの中ではメタとアマゾンを除く銘柄を挙げたうえで、クアルコム、ADMの半導体関連2銘柄もリストアップした。
米国株は1株単位で投資でき、数万円程度で買える株も多いので、個人投資家でも手を出しやすい。円安が進み、日本企業の将来性に不安を感じている人は、米国株に目を向ける手もあるのだろう。
新人に読んでほしい「経済入門」特集
「週刊東洋経済」(2022年4月2日号)の特集タイトルは、「経済超入門2022」。ウクライナ、インフレなど、激動の世界を読む5つのテーマとキーワードで経済をわかりやすく解説している。
ウクライナ危機が世界的インフレを助長していることを図解している。エネルギーや穀物の大輸出国であるロシアへの経済制裁で供給不安が高まり、資源価格が軒並み高騰している。
もともと、コロナ禍からの景気回復で、1次産品の需要が増え、企業の原燃料の価格が高騰、人手不足の米国では賃金も上昇した。それにより企業は、コスト増を販売価格に転嫁したため、世界的にインフレが進んでいた。
物価は年後半にはピークを打つ可能性が高い。日本では物価上昇と比べて所得が増えなければ、購買力は低下し、消費者物価は上がりにくい、と同誌編集部では見ている。
大きなテーマでは「GAFAM対世界の当局」を取り上げている。かつての「イノベーションの担い手」は、今や昔で、一部では解体論が出るほど、反発が強まっていることを解説している。
巨大IT包囲網ではEU(欧州連合)が先行し、「デジタルサービス法案」「デジタル市場法案」を準備、違反した場合は世界売上高の6~10%の罰金を科す、という厳しい内容だ。米国でもバイデン政権になり、規制の動きを強め、米議会も巨大IT企業をターゲットにした独禁法改正案を提出している。
日本の公正取引委員会は欧米とは異なり、GAFAMなどプラットフォーマーとの対話を重視する「共同規制型」の取り組みを進めようとしているが、厳格さを求める声も出ている。
ぜひ紹介したいのが、経済の基本知識・用語もまとめていることだ。「利上げ」はなぜ話題になるのか、為替レートの仕組み、名目成長率と実質成長率の違いなど。また、BCP(事業継続計画)、MMT(現代貨幣理論)、メタバース、ブロックチェーンなど、30の経済キーワードを解説している。
4月に入社を控えたフレッシュパーソンにオススメしたい内容だ。
(渡辺淳悦)