勤務する大学で当事者として実践し、成果が出た
本書がユニークなのは、上條さんが実際に勤務する大学で「ブランディング」を当事者として実践したことを詳しく書いていることだ。
愛知県にある小規模私立大学で、必ずしも存在感がある大学ではなかったが、志願者の増加、定員充足、学生満足度の向上などの成果が出た。2019年には、日本国内のブランディング活動を評価する「Japan Branding Awards 2019」(「Winners」)を大学として初めて受賞した。
本の構成としては、上記の10のステップをそれぞれ、理論編、実践編で構成し、各項の最後に「Work」のページがあり、回答していくと、最終的に自分たちの会社・組織・製品などのブランディングができる仕組みになっている。
ブランディングを始めるには、「大義名分」があるといいきっかけになるという。たとえば、会社創立の周年、経営計画立案、社屋移転、M&A、画期的な新製品の開発などだ。
ブランディングのための組織をつくり、環境分析、顧客分析の後、いよいよ自社を分析する。そのポイントは、自分たちの「強み」と「弱み」、そして「宝さがし」だという。
内側ばかりに目を向けていると、「宝」が見えなくなるので、「社会環境、競合の活動、顧客の認識を俯瞰しながらもう一度、自分たちの強みを見つめ直してください」と書いている。自分たちが「ふつう」に思っていることも、解釈次第では貴重な価値に見えることもある。
「ブランドらしい活動」の例として、エバラ食品工業のブランドステートメント「こころ、はずむ、おいしさ」や事業活動の一部として、「たれで新しい肉料理の可能性を広げていきます」を紹介している。
顧客が企業であるBtoB企業こそターゲットが明確なのでブランディングが効果的だとして導入例を挙げている。また、採用ブランディングについても専門企業の代表が詳しく書いている。業種、地域、規模に関係なく採用ブランディングができるという説明には納得した。
すでにブランディングを始めた企業でも、定期的に「ブランドの健康診断」をしてブランド力の強化をすることを勧めている。
最後は、会社ではなく自分自身の「パーソナルブランドづくり」の項目があり、上條さん自身のパーソナルブランドを公開している。人生100年時代を考えると、「企業のらしさ」と「個人のらしさ」を両立させることも大事なことがわかる。
400ページを超える厚く大きな本だが、学習ドリルをこなす感覚でブランドに関するすべてがわかると言っていいだろう。広報担当者、事業責任者、経営者に勧めたい1冊だ。
(渡辺淳悦)
「超実践! ブランドマネジメント入門」
上條憲二著
ディスカヴァー・トゥエンティワン
2970円(税込)