「Tシャツ」ではなく「長袖姿」は日本向け?! ゼレンスキー大統領の国会演説、海外メディアはどう見たか?(井津川倫子)

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   ロシアの侵攻を受けているウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領が日本の国会で演説して話題を集めています。ゼレンスキー氏はこれまで、米国、英国、ドイツ、カナダ、イタリアなどの議会でオンライン演説をしており、各国向けの演説内容が注目を浴びてきました。

   無精ひげとグリーンのブルゾン姿で、前方をしっかりと見ながら落ち着いたトーンで語りかけたゼレンスキー氏。果たして、各国メディアは「日本向け」に練り上げられたメッセージをどう評価したのでしょうか?

  • 「今度は何を言うのか?」と注目集まるゼレンスキー氏の演説(写真はイメージ)
    「今度は何を言うのか?」と注目集まるゼレンスキー氏の演説(写真はイメージ)
  • 「今度は何を言うのか?」と注目集まるゼレンスキー氏の演説(写真はイメージ)

日本の援助への感謝を語ったゼレンスキー大統領

   ロシア軍による侵攻が始まって1か月。当初は自国民向けにビデオメッセージを発信していたゼレンスキー氏ですが、徐々に西側諸国へのアピールへと舵を切り、わずか2週間で10以上の議会でオンライン演説をしているというから驚きです。

   「日本向けには何を語るのか?」と注目を集めていましたが、ふたを開けてみたら、日本の援助への感謝を示し、ロシアへのさらなる制裁を求めるといった「穏便」な内容でした。海外メディアの目にはどう映ったのか、各国の報道をウォッチしてみると......。

Zelensky calls for "more pressure on Russia" in address to Japanese lawmakers
(ゼレンスキー氏は、「ロシアにより強いプレッシャーを」と、日本国会での演説で要求した:米CNN)
call for:要求する、求める

   多かったのが、ロシアへの制裁を強く求めたことを取り上げた報道でした。CNNや英BBC放送は淡々と、「より強い制裁を求めた」と報じていました。一方で、ゼレンスキー氏が「日本向け」に盛り込んだ文言にフォーカスしたメディアもありました。

Zelensky urges Japan to dial up pressure on Russia, cites nuclear peril in Ukraine
(ゼレンスキー氏はウクライナでの核の脅威に言及して、日本がロシアへの制裁を強めることを求めた:シンガポールの日刊紙)
urge A to B:AにBすることを求める
peril:脅威

Zelensky urges Japan to help with 'tsunami' of Russian invasion
(ゼレンスキー氏は日本に、「津波のような」ロシアの侵攻に対する救済を求めた:米星条旗新聞)

   複数の海外メディアが「日本向け」だと指摘していたのは、ゼレンスキー大統領が、ウクライナ国内の「原発」がロシア軍の脅威にさらされていることや、「サリン」のような生物兵器が使われる可能性に触れたこと、ロシア軍の猛威を「tsunami(津波)」というワードを使って伝えたことです。日本が世界で唯一の被爆国であること、地下鉄サリン事件や東日本大震災を踏まえてのことだ、という分析でした。

   なかには、仏テレビ局のように「Zelensky slams UN, urges reform in address to Japan」(ゼレンスキー氏、国連を批判。日本の国会演説で改革を強調)と、ゼレンスキー氏が国際機関への不満を示したと強調するメディアもありましたが、「過去の事件や災害を引用して日本人の琴線に触れながら、ロシアへのより強い経済制裁を求めた」というのが、一般的な評価のようです。

なぜ、いつもの「Tシャツ姿」ではなく「長袖」だったのか?!

   いまや世界中が「今度は何を言うのか?」と注目しているゼレンスキー氏の演説。各国でスタンディングオベーションを巻き起こし、まるで議会ジャックのような様相を呈していますが、時折発するストレートな批判も少なくありません。日本と同日に行われた仏議会の演説では、ロシアで稼働を続けている企業名を上げて、痛烈に批判しました。

   すでに多くの人に知られていますが、コメディアン出身のゼレンスキー氏は人々の気持ちを掻き立てる術に優れていて、各国向けの演説も「highly tailored messages:BBC」(練りに練ったメッセージ)だという評価が一般的です。

   BBCはゼレンスキー氏の演説画像を並べて、「演説内容だけでなく、無精ひげや服装、こぶしの振り上げ方、背景など、すべてが計算されている」と分析していますが、そこで気になったのがゼレンスキー氏の服装です。

   Tシャツ姿が「代名詞」のようなゼレンスキー氏ですが、長袖の服を着ていたのは日本とドイツだけ。さらに、ドイツの時は襟を開いたくつろいだシャツ姿でしたが、日本向けでは襟元をぴっちりと上まで閉めていました。日本の後に出演したフランス議会ではいつもの「Tシャツ姿」に戻っていましたから、意図的に長袖姿を選んだと思われます。

   加えて、イスラエルやイタリア、フランス向けの演説では大きなジェスチャーと豊かな表情が目を引きました。BBCの分析どおり「すべて計算づく」だとしたら、長袖姿は「かしこまった装い」と「落ち着いた話ぶり」で日本の反感を買わないようにする「作戦」だったのでしょうか?

   それでは、「今週のニュースな英語」は、ゼレンスキー氏の演説から「call for」(~を要求する)を取り上げます。

Trade unions call for nationwide strike
(労働組合は全国的なストライキを要求した)

The trip to NY calls for a lot of money
(ニューヨークへの旅行は高くつく)

Zelensky calls for a cease-fire
(ゼレンスキー氏は停戦を求めている)

   国会演説後の国内メディアは、まるでゼレンスキー氏にジャックされたかのような様相です。批判的な反応は見受けられないようですので、「長袖姿」に代表されるゼレンスキー氏の「日本向け作戦」は「成功」だったのではないでしょうか。

(井津川倫子)

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井津川倫子(いつかわりんこ)
津田塾大学卒。日本企業に勤める現役サラリーウーマン。TOEIC(R)L&Rの最高スコア975点。海外駐在員として赴任したロンドンでは、イギリス式の英語学習法を体験。モットーは、「いくつになっても英語は上達できる」。英国BBC放送などの海外メディアから「使える英語」を拾うのが得意。教科書では学べないリアルな英語のおもしろさを伝えている。
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