「週刊東洋経済」「週刊ダイヤモンド」「週刊エコノミスト」、毎週月曜日発売のビジネス誌3誌の特集には、ビジネスパースンがフォローしたい記事が詰まっている。そのエッセンスをまとめた「ビジネス誌読み比べ」をお届けする。
2022年3月22日発売の「週刊ダイヤモンド」(3月26日号)は「地政学超入門」と題して、ウクライナ侵攻後の激変する世界を、地政学の視点から読み解いている。
ウクライナ危機の本質は、「海の大国」米国とその仲間VS「陸の強国」ロシア・中国の対立にあるというのだ。
「海の大国」米国VS「陸の強国」ロシア・中国の対立
地政学とは、国土の地理的な位置や形が国家の政治、経済、軍事、社会的な動向に与える影響をマクロに分析する学問だ。ヒトラーが地政学的な考え方を国家の公認イデオロギーにしていたため、戦後は負のイメージとともにタブー視されてきた。
しかし、地政学の概念を使うと現代の国際情勢を理解しやすいことから、近年再び注目されるようになってきた。
米国は「海上を制する国が世界の覇権を握る」というシーパワー理論のもとにアジア太平洋での基地の確保やパナマ運河の建設を進め、現在でも強大な海洋国家として覇権を握り続けている。
一方、ランドパワーの代表とされるのがロシアと中国だ。かつて北に位置するソ連が中国にとって脅威となっていたが、現在ではロシアと中国は友好関係にある。このため中国はアジア海域への勢力拡大に乗り出している。
ロシアのウクライナ侵攻の一因は、かつてソ連の一部だったウクライナがNATO加盟の動きを見せたことだといわれている。地政学的に見れば、ロシアの周縁にあった「緩衝地帯」が敵方の勢力下に置かれることになる。
ジャーナリストの池上彰さんは、「ウクライナ侵攻によって、世界の歴史は大きく書き換えられることになりそうです。ポスト冷戦という言葉はもう使えなくなり、新たな時代に突入します」と書いている。冷戦はイデオロギーの対立だったが、いまは「どれだけ領土を広げるか」という新たな帝国主義の時代になったというのだ。
そのうえで、ロシアの行動を絶対に認めてはいけない。景気が十分回復しないまま物価だけが上がるスタグフレーションは民主主義の世界を維持するためのコストだ、と説いている。
パート3では、地政学リスクで激変する産業地図を取り上げている。各国のエネルギー調達の見通しにふれながら、日本の難解な状況を解説している。とりわけ重要なのが、稼働中のLNG(液化天然ガス)プロジェクト「サハリン2」だ。三菱商事と三井物産が参画し、両社を通じて電力・ガス計8社が年間計約500万トンのLNGを調達している。日本全体の8%に過ぎないが、撤退すると、中国企業に渡る公算が大きく、安全保障上の懸念があるという。欧米に同調して、ロシア産エネルギーの禁輸に踏み切ることができるのか、選択を迫られている。
自動車業界はどうか。トヨタ自動車に対するロシアからの撤退圧力が強まり、試練であると同時に、ウクライナ有事がトヨタに利するという驚愕シナリオを披露している。
欧州がけん引してきた脱炭素シフトが足踏みし、低価格EV(電気自動車)が撃沈し、ハイブリッド車が浮上するのでは、という見方を紹介している。
最後に、紛争が長期化すると、世界同時スタグフレーションになり、世界恐慌に陥るリスクもある、と指摘している。さまざまな物価の上昇はその序章かもしれない。しばらくウクライナ情勢から目が離せない。
エネルギーだけではない食料危機の可能性も
「週刊エコノミスト」(2022年3月29日号)の特集は、「世界戦時経済」。冒頭で、ロシア制裁のインパクトを取り上げている。「週刊ダイヤモンド」もふれている「サハリン2」からの撤退問題が悩ましいようだ。
「サハリンからLNGが来なくなれば、日本では債務超過に陥るガス会社も出るだろう。欧米の石油メジャーに同調してロシアから撤退すべきではない」と、日本のガス大手首脳は話している。
ロシアと中国を結ぶ天然ガスパイプライン「シベリアの力」が2019年に開通しており、今年2月にはさらなる供給量拡大で合意。モンゴル経由の「シベリアの力2」プロジェクトも進んでいるそうだ。
世界経済の見通しについて、エコノミスト各氏が寄稿している。武田淳氏(伊藤忠総研チーフエコノミスト)は、「対ロ制裁によって原油価格は1ドル=120円台前後までの推移が見込まれ、成長率は3%台後半まで減速しよう。景気後退とまでいえないが、世界経済は強い停滞感に襲われることになろう」と見ている。
阮蔚氏(農林中金総合研究所理事研究員)は、「ウクライナは小麦やトウモロコシ、ヒマワリの一大産地。ロシア産も含めて供給が途絶すれば、その影響は計り知れない。途上国に食料危機の可能性がある」と見ている。さらに、ロシア、ベラルーシは化学肥料の大輸出国であり、世界的な化学肥料不足を懸念している。
このほかにも、「需給にひっ迫懸念のアルミ、ニッケルは混乱で取引停止」(本間隆行・住友商事グローバルリサーチチーフエコノミスト)、「脱炭素化はエネルギー確保の危機に直面。急速な移行は『一時停止』に」(杉山大志・キヤノングローバル戦略研究所主幹)などの見方を伝えている。
国際情勢にかんしての興味深い論考も載っている。遠藤誉氏(中国問題グローバル研究所所長)は、中国はロシアと「軍冷経熱」で、軍事面では突き放すが、エネルギーと決済手段では支援すると見ている。中国はロシアを人民元圏に取り込むことを考えている。中国の台湾攻撃もない、と断言している。
「米軍の参戦によっては負けるかもしれない台湾武力攻撃などの火中の栗を拾いに行く価値は習近平氏には皆無である」と書いている。きな臭い国際情勢の中で、一片の安心材料を見た思いがする。
日本から工場が消えていく
「工場が消える」――。「週刊東洋経済」(2022年3月26日号)の特集タイトルが、ショッキングだ。脱炭素の流れによって国内工場の閉鎖ラッシュが進み、「輸出立国」という戦後日本の発展モデルが揺らいでいるという。
基幹産業を襲う新たな「六重苦」について説明している。円安と資源・エネルギー高、世界的な産業の囲い込み、高まる経済安全保障の高まり、グリーン電力の不足、少子高齢化による人手不足、カーボンニュートラル対応、の6つだ。
三菱自動車・パジェロ製造の工場閉鎖、日本製鉄・呉2基、和歌山1基の高炉休止など、ここ数年の自動車・鉄鋼、石油産業における生産拠点閉鎖・縮小が続いている。今年1月、国内石油最大手・ENEOSホールディングスが和歌山製油所の閉鎖を発表した。
特集では、影響を受ける和歌山県有田市の苦境をルポしている。発表の翌日、和歌山県の仁坂吉伸知事が同社を訪れ、太田勝幸社長に直談判し、閉鎖後の雇用維持を求めた。和歌山製油所の出荷額は約4700億円。有田市全体の90%超を占める。協力会社を含めると社員は計1300人。「特産品のミカンの栽培などの産業はあるが、実際は製油所がこの町の経済のすべてだ」という地元の声を紹介している。
ホンダが4輪車向けエンジン部品を製造する「パワートレインユニット製造部」がある、栃木県真岡市では25年中までに生産を中止するという発表に揺れている。900人の従業員は国内の拠点に配置転換するというが、全員が転勤に対応できるか不安視されている。
脱炭素の流れは脱エンジンだけにとどまらない。「日本でクリーンエネルギーを調達できなければ輸出向けを海外生産にシフトすることになる」と自動車大手の幹部は話している。
暗い話題が多い一方で、新たな動きも紹介している。川崎市には国内屈指の石油化学コンビナートがある。川崎市は水素利用やカーボンリサイクルを軸とした「カーボンニュートラルコンビナート」構想の実現に動き出した。記事では、今後コンビナートの選別が進むと見ている。造船業界の水素運搬やCCUS(二酸化炭素の回収・利用・貯留)といった新技術の開発にもふれている。
日本の基幹産業が細っていく事態にどう対応すべきか。寺島実郎・日本総合研究所会長は「構想力の欠如が製造業を没落させた」と指摘。要素技術を誇るのではなく、総合エンジニアリング力をつけることが不可欠だ、と話す。
企業が変われば地域も変わる。工場など地方の現場に足を運んだルポを読むと、東京にいてはわからない経済の変化が伝わってくる。(渡辺淳悦)