ロシア国内では戦争が支持率回復の決定打
ハイパーインフレとロシア国民の声が、今後のカギを握ると指摘するのは、大和総研のエコノミストたち。意外にも、強面のプーチン大統領はロシア国民の支持率をひどく気にするポピュリストだというからだ。
「ウクライナ問題に関する緊急レポート」(3月18日付)は、リサーチ本部長の熊谷亮丸氏ら9人のエコノミストによる力作だが、その中で注目したのがプーチン大統領の支持率だ。
図表2は、ロシアの独立系(非政府系)世論調査機関である「レバダセンター」によるプーチン大統領の20数年間にわたる支持率の推移だ。大和総研はこう指摘する。
「(2022年の)直近2月にやや上昇していることが見て取れるが、実際にロシア軍によるウクライナ侵攻が始まった2月24日以降のロシアの世論を見るには、3月以降の調査を待つ必要があろう。(中略)ここで注目しておきたいのは、2018年に支持率が急落し、後も停滞が継続していることである。振り返れば、2014年のクリミア併合・ウクライナ東部紛争も、プーチン氏への支持率が顕著に低下する中で勃発した」
図を見ると、確かにクリミアに侵攻する直前の2014年、プーチン氏の支持率は約60%と過去最低に低迷していた。ところがウクライナに戦争を仕掛け、クリミアとドンバス地方を占領した途端、一気に支持率が約97%と過去最高に上昇した。国際世論が激しく批判するなか、ロシア国内では戦争が支持率回復の決定打となったのだ。その理由を大和総研はこう説明する。
「ロシアには『超大国ソビエト連邦』へのノスタルジーがかなり広く共有されている(中略)。2014 年の『成功体験』がプーチン氏に今次のウクライナ侵攻の誘因を多少なりとも与えたのであれば、今後、同氏の支持率は『プーチンの戦争』の帰趨を占ううえで、 極めて重要な指標となり得る。プーチン氏は強面ながらも支持率に強いこだわりを持つポピュリストでもある(中略)。2014年当時と異なり、支持率が停滞を脱することがないのであれば、プーチン氏にとって戦争を継続することの便益の一つが失われる」
そして、大和総研では今後のプーチン氏の動向を、こう予測する。
「ルーブルが暴落し、供給ショックと相まってハイパーインフレが引き起こされる。多くのビジネスは止まり、投資は停滞し、人々の生活水準の劇的な悪化によって消費は収縮する。(中略)それらはすべて、『プーチンの戦争』のコストである」
「ロシアの人々の声を決めるのは『超大国ノスタルジー』の強靭さと経済であると述べたが、比重は徐々に経済に移っていく。(中略)はっきりしているのは、時間はプーチン氏に味方をしないこと、(中略)『プーチンの戦争』に持続可能性がないことを経済が証明するであろうことだ」
(福田和郎)