その店に入ると、棚やショーケースに並ぶほとんどの商品がどれも手のひらに収まるようなサイズで、自分の身体が大きくなったかのような錯覚を覚える。
もちろん本を開けば、きちんと活字が印刷されており、サイズ以外は違和感がない。文学や趣味の本など、内容は自由で幅広い。なかには触ることをとまどうほど、小さく造形をした本もある。ここは小さな「豆本」の専門店、「呂古書房」である。店主の西尾浩子さんにお話を聞いた。
神保町初の女性店主として独立
幼い頃から古本に親しんでいた西尾さんは、神保町の限定本の専門店で経験を積んだという。そして、「経験を活かし、自分なりの書店を立ち上げたい」と平成5(1993)年に呂古書房を始めた。
「独立するにあたって、大きな本は女手では難しいと思ったんです。そこで装丁の美しい、豆本や限定本(版画・挿画本)を中心にと考えました」
当時古書業は男性中心。あるいは、古書店で働く女性のほとんどが店主の家族だった。外部の女性の独立は珍しく、「独立1号」として新聞にも載ったほどだ。
「当時の古書会館(古書の市場などを行う)は、女性用トイレが一つしかありませんでした」
あっけらかんと語る西尾さんから、しなやかなたくましさをもった当時の姿を想像させた。