「前川孝雄の『上司力トレーニング』~リモートワークで働きがいある職場を創る」では、リモートワーク下での「支援型マネジメント」について解説しています。
前回までをおさらいすると、第1のポイント:部下の仕事の「責任の明確化」、第2のポイント:部下の「仕事の具体化」、第3のポイント:上司の「反応の意識化」、第4のポイント:上司の「ITツールの習熟化」を取り上げてきました。
そして《前編》、リモートワーク下での「支援型マネジメント」の第5のポイントとして「遠隔での仲間化」をキーワードに紹介しました。そのうえで、メンバーをタコツボ化させないための上司によるネットを介したファシリテーションのポイントを解説しました。
《後編》では、《前編》の後段で触れたメンバー間のインフォーマルコミュニケーションを促進する、より詳しい方法を紹介しましょう。
定期的なインフォーマルコミュニケーションの取り入れ方
職場のインフォーマルコミュニケーションといえば、飲み会やランチ会と考えがちですが、仕事時間の中にうまく組み込む方法もあります。私の会社での実際例を紹介しましょう。
■「チェックイン」
1つ目は、「チェックイン」という取り組みです。ホテルや空港の窓口で行うチェックインにちなんだ名称です。具体的には、ミーティング冒頭の本題に入る前に、次のようなテーマで各メンバーに全員への自己紹介を促します。こうすることで、会議や研修の開始時に、参加者同士がリラックスして話せる関係へと導くのです。
【チェックインのテーマ例】
・「この週末の出来事は?」
・「最近、気になったり、印象に残ったことは?」
・「ニュースや報道で、共感したり、考えさせられたことは?」
・「マイブーム(最近、はまっていることや趣味など)」
・「最近、人に感謝したり、幸せを感じたエピソード」など
私の会社では、以前はこの「チェックイン」を年末年始やお盆休みなど長期休暇明けのタイミングで行っていました。しかし、リモートワークが常態化し、コミュニケーションが希薄になりがちな今は、毎週月曜のスケジュール確認と相談のためのオンライン・ミーティングの冒頭で行っています。
部下一人ひとりの個性や人柄が現れ、趣味・趣向などから、意外な側面が発見でき、相互理解に役立ちます。また、共通の関心事がみつかれば、その後の親睦にもつながります。
実際に、ふだん生真面目なメンバーが大好きなアイドルグループのコンサートの様子を熱弁し、微笑ましい素顔を垣間見られた例。また、仲間のペットの自慢話と動画に触発され、ペットを飼い始める者も現われ、その後共通の話題で話が盛り上がっている例など、お互いに楽しみな時間になっています。
■「みんなの読書」(通称「みん読」)
「みん読」は、各自、最近読んだ本をみんなに紹介する取り組みです。定例オンライン会議の最後に行っています。本のジャンルは何でもよく、仕事関係のビジネス書・学術書から、趣味の本、小説、雑誌、漫画でもOKです。
これにも一人ひとりの個性が出ますし、互いに考え方や感じ方を知ることができる、とてもよい機会です。また、自分では普段関心が向かない多彩な分野の知識や情報が得られる点でも、とても有意義です。
実は、読んだ本の概要や感想を他者にわかりやすく簡潔に話すのは、意外と難しいものです。その本には何が書かれており、ポイントは何か。どこに納得し、どこに違和感を覚えたか。それはなぜか。これらを要領よく語るには、自分の頭の整理が必要ですし、批判的思考とプレゼンテーションの訓練にもなります。こうした、自己啓発促進にもなるのです。
しかし、そう難しく考えてしまうと窮屈ですから、取り上げた本の良し悪しや、発表の出来栄えを評価するのではなく、お互いが楽しめる雰囲気が大事です。「この小説の、ここがサイコーに良かった!」「自分も読んでみたい!」と、盛り上がることが第一。あくまで「仲間化」が第一義ですから。
リモートワークへの取り組みで「本物の上司力」を身につける
本連載の第1回と第2回では、リモートワーク下ではマネジメントの本質があらためて問われており、「支援型マネジメント」への転換が重要であることを述べました。そして、この変化は単にコロナ禍の下での特殊事情ととらえるのは早計であり、もともと求められていた変革が、5年から10年早く「待ったなし」で到来したものだ、とも述べました。
すなわち、これまでの終身雇用と年功序列が崩れつつある今、日本企業はもはや「ポスト」と「報酬」で同質のメンバーを動機づけるピラミッド組織では持続できません。ここから早々に脱し、「組織の目的」と「個々の尊重」で多様(ダイバーシティ)なメンバーを動機づけるサークル組織へと自己変革することが不可欠なのです=図参照。
そのことによって、一人ひとりの部下が主体的に、働きがいを実感しながら、チームで援け合って成果を上げる働き方が実現します。
リモートワークへの適切な対応は、各部下が遠隔でも自律的に仕事を進め自己成長できるチームへと生まれ変わるまたとないチャンスであり、試金石なのです。
コロナ禍のピンチをチャンスに変え、上司の皆さんが「本物の上司力」を身につけられることを心から願っています。
※マネジメント改革を実現する「上司力」の詳細をさらに詳しく知りたい方は、拙著「本物の上司力~『役割』に徹すればマネジメントはうまくいく」(大和出版、2020年10月発行)をご参照ください。
【プロフィール】
前川 孝雄(まえかわ・たかお)
株式会社FeelWorks代表取締役
青山学院大学兼任講師、情報経営イノベーション専門職大学客員教授
人を育て活かす「上司力」提唱の第一人者。リクルートを経て、2008年に管理職・リーダー育成・研修企業FeelWorksを創業。「日本の上司を元気にする」をビジョンに掲げ、「上司力研修」「50代からの働き方研修」「eラーニング・上司と部下が一緒に学ぶ パワハラ予防講座」「新入社員のはたらく心得」などで、400社以上を支援。2011年から青山学院大学兼任講師。2017年働きがい創造研究所設立。情報経営イノベーション専門職大学客員教授、一般社団法人 企業研究会 研究協力委員、ウーマンエンパワー賛同企業 審査員なども兼職。連載や講演活動も多数。
著書は『50歳からの逆転キャリア戦略』(PHP研究所)、『「働きがいあふれる」チームのつくり方』(ベストセラーズ)、『コロナ氷河期』(扶桑社)、『50歳からの幸せな独立戦略』(PHP研究所)、『本物の「上司力」』(大和出版)等30冊以上。近刊は『人を活かす経営の新常識』(FeelWorks、2021年9月)および『50歳からの人生が変わる 痛快! 「学び」戦略』(PHP研究所、2021年11月)。