コロナ禍、ウクライナ危機...... 懸念されるスタグフレーション
2013年3月に黒田総裁を就任させた当時の安倍晋三政権は、大胆な金融緩和政策をアベノミクスの柱に掲げ、内閣官房参与だった本田悦朗氏らリフレ派の推薦をもとに日銀政策委員会にリフレ派を次々と送り込んだ。
岩田規久男副総裁(13年3月~18年3月)、原田泰委員(15年3月~20年3月)を経て、現在は片岡氏(17年7月~)、若田部昌澄副総裁(18年3月~)、安達誠司委員(20年3月~)、そして安倍政権を引き継いだ菅義偉政権が選任した野口旭委員(21年4月~)の4人がおり、片岡氏が抜けると、政策委員会9人の中でリフレ派は3人となる。
黒田総裁が異次元緩和をはじめてから約9年になるが、2%の物価目標に届かず、黒田総裁はデフレ脱却に向け緩和継続の姿勢を変えていない。日銀が目指してきたのは、金融緩和で景気を良くし、需要が主導する形で物価が緩やかに上がる状況だ。
他方、足元では新型コロナウイルスのパンデミックによる生産・物流の混乱もあって、原油や穀物など、供給要因でインフレ圧力が強まる「悪いインフレ」への警戒が世界では高まっている。さらにロシアのウクライナ侵略が加わり、これに伴うエネルギーを含む経済制裁などで一段の物価上昇と景気の落ち込みが同時進行する「スタグフレーション」を懸念する声も強まっている。
米国は金融緩和を終了し、金利の早期引き上げに動くが、景気動向は予断を許さず、日本も物価と景気をにらみ、金融政策の舵取りは難しさを増す。
そうしたなか、今回は岸田文雄政権になって初めての日銀人事で、来春に任期満了を迎える黒田総裁の後任人事を占う意味でも注目された。異次元緩和からの「出口戦略」の議論を封印する黒田日銀だが、年後半には次期正副総裁の人選も本格化する。今回、岸田政権が高田氏を指名したことで、金融緩和の修正も、ようやく視野に入ったと言えそうだ。(ジャーナリスト 岸井雄作)