携帯電話業界の闇なのか?!それとも販売店の良心? 総務省「電気通信事業法27条の3関係の通報」リポートを深読み

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   「携帯電話業界に公平な競争を!」と設けられたルールが、いっこうに守られていないことがわかった。「通信料金と端末代金の完全な分離」と「行き過ぎた囲い込みの禁止」である。

   総務省のワーキンググループが3月14日、「総務省情報提供窓口に寄せられている電気通信事業法27条の3関係の通報の状況」という携帯電話の販売代理店・量販店の違反嫌疑を公表するリポートを発表した。

   しかし、売る側を「悪者」にしても問題は解決しないようだ。買う側の中にも「ワル」がいるからだという...。いったい、どういうことか。

  • 携帯電話ショップはなぜ端末を単体で売らないのか(写真はイメージ)
    携帯電話ショップはなぜ端末を単体で売らないのか(写真はイメージ)
  • 携帯電話ショップはなぜ端末を単体で売らないのか(写真はイメージ)

電話で端末購入を予約したのに...販売を拒否

   総務省のリポートのタイトルにある「電気通信事業法第27条の3」とは、携帯電話業界の公正な競争を促進するために2019年に改正された項目だ。ざっくりいうと、次の2つの競争ルールを業界に求めている。

(1)通信料金と端末代金の「完全な分離」。
(2)行き過ぎた「囲い込み」の禁止。

   ところが改正法のルールがいっこうに守られないため、総務省のワーキンググループは2020年以来、販売店に対する覆面調査を実施して是正を求めたり、利用者の情報通報窓口を設置したりと、あの手、この手を使ってきた。今回は2021年9月に設置した「情報提供窓口」に寄せられた通報の中から、「電気通信事業法第27条の3」に違反する「不適切な行為」を、それぞれ携帯大手会社の名前を挙げて公開した。

   それによると、提供された情報701件のうち「端末の単体購入拒否」「利益提供の上限超過」などの違反行為の通報が352件に達した=図表1参照。携帯大手会社(キャリア)別では、ソフトバンクが一番多く139件、次いでKDDI 130件、NTTドコモ62件、楽天3件、キャリア不明18件と続く=図表2参照

(図表1)総務省の情報窓口に寄せられた「違反行為」(総務省公式サイトより)
(図表1)総務省の情報窓口に寄せられた「違反行為」(総務省公式サイトより)
(図表2)携帯大手会社別の「違反行為」(総務省公式サイトより)
(図表2)携帯大手会社別の「違反行為」(総務省公式サイトより)

   いったいどんな「違反行為」が行われているのか。まず、「端末の単体販売拒否」の具体例をみると――。

「iPhone12miniを端末単体で購入したい旨を伝えたところ、回線契約をする人に販売するため、端末単体では販売できないと販売を拒否された」(ソフトバンク・キャリアショップ)
「iPhoneSE64GBの本体のみを購入しようとしたところ、本体のみの購入は在庫がないためできないと回答あり。乗り換えや新規契約用の在庫はあるとのことだった」(KDDI・キャリアショップ)
「電話で端末購入を予約したにも関わらず、店舗に行くと在庫がない、対応したスタッフの間違いと言われ、販売を拒否された」(ソフトバンク・キャリアショップ)
「在庫があるにもかかわらず、端末単体購入の受付は締め切ったと言われ、販売を拒否された」(KDDI・量販店)
「iPhoneSE2のMNP乗り換え販売キャンペーンで、在庫があるかどうかを確認した際『ある』とのことだった。割引2万2000円がなくなることは了解した上で回線契約なしで販売してほしい旨言ったところ、『そのようには販売できない』と販売を拒否された」(NTTドコモ・量販店)

   以上のように、事前に電話で確かめたにもかかわらず、店舗に行くと、販売を拒否されるケースが目立つ。

乗り換えならiPhoneを1円で購入できるのに...

   また、リポートを見る限り、「iPhone」の場合、「乗り換えは1円で購入できるが、端末のみ販売はできない」と、明らかに「通信と端末の完全な分離」違反のケースが多かった。

新しいスマホを買いたいのに(写真はイメージ)
新しいスマホを買いたいのに(写真はイメージ)
「iPhone11が乗り換えだと1円で購入できるが、端末のみ販売はできないと言われた。希少在庫なのでキャリアから乗り換えでのみ販売するように言われているといわれ、端末販売を拒否された」(NTTドコモ・キャリアショップ)
「乗り換えでiPhoneSE64GBが1円と案内され、在庫の確認もしてもらった。端末のみでも2万2001円なので端末のみ購入したいと伝えると、在庫をもう一度確認してくると言われ、在庫はないと説明された」(ソフトバンク・量販店)
「品薄の商品で貴重な在庫のため、今は回線契約をする顧客優先で販売していると言われた。『優先』というのはどう言う意味か、来店時にまだ在庫が残っていれば購入できるのかと質問したところ、結局は回線契約を伴う購入者限定で販売すると回答され、仕方なく回線契約を伴う端末購入を選択した」(楽天モバイル・キャリアショップ)

   このように、露骨に回線契約を要求するケースが目立った。

違反なのに開き直り?!

   また、「端末単体販売時の割引拒否」の例をみると――。

「案内された料金プランだと厳しいため端末だけを購入したいと伝えたところ、その場合はキャンペーンとして行っている端末購入のみ条件の割引が適用されず、定価でしか販売できない、の一点張りだった」(ソフトバンク・量販店)
「iPhoneSEの値引き施策キャンペーンについて、店舗独自割引2万2000円に加え、対象機種限定特典割引3万3269円を『乗り換え限定』で行なっている。端末単体での割引適用はしていないと言われた」(KDDI・キャリアショップ)
「iPhoneSE64GB(約5万7000円)を、本体価格から約3万5000円割引、回線契約(MNP)ありの場合さらに2万2000円割引で1円になると店内掲示があった。回線契約は不要な旨を話すと『回線契約がない場合は2万2000円の割引だけでなく、3万5000円のほうの割引もなくなる。割引は回線契約が前提』と言われた」(ソフトバンク・量販店)
「iPhoneSE64GBの施策に関して、『当店独自割引』が4万7799円、『対象機種限定割引』が1万8470円で一括1円キャンペーンを行なっている。『当店独自割引』は他社からの乗り換え又は新規の契約が対象なので、この割引は違反だと思う」(KDDI・キャリアショップ)
「他社から乗り換えだと一括1円だが、端末のみで購入すると7万円になると案内された。電気通信事業法で通信と端末のセット販売を条件とする利益提供は2万円以上してはいけないとなっているはずと伝えたところ、特別な割引のため問題ないと回答された」(NTTドコモ・キャリアショップ)

   明らかに違反行為なのに「開き直った対応」が目につく。

「iPhoneSE64GB一括10円(対象機種限定特典3万3260円割引プラスMNP割引2万2000円)のキャンペーンを実施していた。新規契約でも一括10円と案内を受けて、順番待ちをした。しかし、順番になったところで新規ではなく単体で購入したい旨を申し出ると、単体購入ではキャンペーンが適用できないと拒否された」(KDDI・量販店)

と、せっかく並んだのに冷たい仕打ちを受けた者もいる。

   一方、「利益提供の上限超過」の例では――。

「店前のPOPにはMNPで端末1円、端末購入のみだと2万2001円になると案内があるのに、端末単体購入の旨を伝えると、およそ3万5000円になると言われた。通信契約込みだと2万2000円以上の割引になるのかと問い合わせたが、相手にされなかった」(NTTドコモ・キャリアショップ)
「GooglePixel4a(5G)が新規/乗り換えで一括1円と店頭の広告に記載。端末の在庫があることを確認したのち、単体での購入を希望したところ、『回線契約がないと定価での販売』になると断られた。セット販売時の最大値引き可能額は2万2000円なので移動機物品販売でも2万2001円になるのではないかと指摘しても、同じことを繰り返し説明。『回線契約すれば一括1円、契約なしだと定価販売。ソフトバンクがそう決めている』と説明され、在庫は存在するのに購入できなかった」(ソフトバンク・量販店)

   にべもない対応に、怒りを募らせるも人もいた。

本当に売りたい人に売れない...

   今回の総務省ワーキンググループの情報公開について、ヤフーニュースのヤフコメ欄では、携帯電話の販売代理店経験者という投稿者からこんな指摘があった。

転売ヤーの横行を販売店は嘆く(写真はイメージ)
転売ヤーの横行を販売店は嘆く(写真はイメージ)
「代理店は嘘が横行しており、売れば勝ちの世界です。私は、頑なに嘘はつけないと伝え、上司の指示に従わなかったので、販売させてもらえず、しばらく掃除や操作の案内ばかりする時期もありました」「家族を養わなければいけない(中略)というなかで、葛藤するスタッフもいたことを心に止めておいてもらいたいです」「代理店の裁量の程度を極限に小さくし、規制を厳しくすることと、厳しい処置を行い、これ以上悲しい思いをするスタッフを減らしていただきたいです」
「(コールセンターで働いているが)ショップや代理店での契約の尻拭いをしているのは私たちです。最近は、申し込みしたショップや代理店に直接聞いてくださいって言ってもいいことになりましたが。そのせいで、疲弊しているオペレーターもいることを知ってください。会社の看板背負っているなら、適当なこと言わないで」

   また、代理店関係者という人からは「転売ヤー」の問題点を指摘する声が多かった。

「端末単体購入の拒否が多く挙げられていますが、最近は利用する目的もなく端末購入し、転売する行為が横行」「断られることもあってか、MNP(携帯大手)に在庫があることを聞き出した上で単体購入に切り替えるケースがかなり増えている」「黙って転売を見過ごせというのでしょうか。(中略)この問題点、総務省からの是正を受けた後には、キャリアから『端末単体購入は断らないでください』の文書通達だけ。それでは責任逃れと感じてしまいます」
「そもそも端末価格を相場とかけ離れた低価格にしなければ、転売も何もないと思います。あとは台数制限するとか。だからこそ政府は措置をとったはずなのに...1円投げ売りとか出てきている。そして買う人も一定数いる。だから企業もいろいろ考える。いたちごっこですね。1円になんてしなくていいから、もっと透明性ある市場にしてほしいです」
「開店前から転売目的の方々の行列。お子さんの入学に伴いiPhoneを買いにきたご家族連れがそれを見て帰られてしまう。本当に必要としている方々に行き渡らないような販売方法に現場は疲弊しています。こんな施策はやめていただきたいです」

   現場の販売員たちはこう嘆くのだった。

(福田和郎)

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