富士通の株価が2022年3月9日、一時前日終値比1170円(7.7%)高の1万6330円まで上昇した。
ロシアのウクライナ侵攻で世界の株式市場が大荒れの中、その後も崩れずむしろ上値を追う傾向にある。3月8日の取引終了後、募集していた早期退職者の人数が過去最大規模の3031人となったと発表。人員を入れ替え、社をあげてデジタルトランスフォーメーション(DX)の支援事業に注力する本気度を投資家がかぎとってもいるようだ。
年約300億円の固定費削減効果もたらす「構造改革」
富士通が発表した内容を確認しておこう。「早期退職」「希望退職」という言葉は使っておらず、「セルフ・プロデュース支援制度の拡充」と表現している。
「当社グループの外において新たなキャリアにチャレンジ・活躍を希望する従業員に対し、期限を限定して従来から実施しているセルフ・プロデュース支援制度を拡充する」というものだが、客観的に見て、早期退職を希望する者を募集するということに変わりはない。
対象者は、富士通及び国内グループ会社に所属する主に50歳以上の幹部社員(正規従業員と定年後再雇用従業員)。2022年2月28日までに、国内従業員の4%程度にあたる3031人が応募した。退職日は3月31日で、退職金に特別加算を実施するほか、再就職支援会社を通じた再就職支援サービスを提供する。
加算退職金や再就職支援などで650億円の費用を計上し、2022年3月期連結決算通期の営業利益で650億円、最終利益で450億円、それぞれ従来予想から減額する下方修正も発表した。
営業利益も最終利益も増益だった従来予想が一転減益となるが、そんなことより2023年3月期以降に、年約300億円の固定費削減効果をもたらす構造改革を断行する姿勢を株式市場は評価している。
余力がある中で「再成長」を目指す
富士通は3年前の2019年3月期にも45歳以上を対象に早期退職者を募集しており、このときは2850人が退職。今回はその3年前を上回る人数となっている。最終利益は2019年3月期で1045億円、2022年3月期で1600億円(予想)と、いずれも見事な黒字。
近年、早期・希望退職を募集する企業は赤字と黒字で2極化しているが、富士通は「余力がある中で再成長を目指す黒字企業の早期退職者募集」の代表格と言えようか。
SMBC日興証券は3月9日配信のリポートでは「(3年前に早期退職を)既に3000人規模で実行していたことから1000人程度、100億円程度の(コスト削減)効果にとどまると想定していた弊社予想を上回り、2023年3月期業績見通しが高まる点はポジティブな印象」と記した。
野村証券も早期退職者数発表を受けたリポートで「IT企業からDX企業へ変革を進める人事制度の一環」と指摘、「聖域なき施策の実行に伴い、収益性改善が続くと見込まれる点は評価できる」と歓迎した。
国内では早期・希望退職者の募集人数、高水準続く
東京商工リサーチのまとめによると、2021年に早期・希望退職者募集を開示した上場企業は84社。前年の93社より減少したが高水準が続いた。
募集人数を見ると、人数を公表した69社の合計で1万5892人に達し、前年の1万8635人から減少したが、2年連続で1万5000人超となるのは2002年・2003年以来、18年ぶりだ。
2021年に募集を開示した84社のうち、直近本決算の最終損益は半数超の47社が赤字でアパレル、観光業関連が多かった。
一方、黒字は37社あり、繊維製品を除く製造業各社による「年齢構成是正」「先行きの需給動向を見通した先行型」のリストラが目立った。
DX支援に注力する富士通はもはや製造業と言えるかどうか微妙なところだが、株式市場からは「先行型」の代表選手とみられているのだろう。(ジャーナリスト 済田経夫)