日本の自動車産業の未来、大きく左右する連携
ソニーの狙いはかなり明確だ。自動運転に必要な画像センサーで高い技術力を持っていることは前述の通りで、これを生かして2020年にEV試作車「VISION―S(ビジョンS)」を発表。22年1月にはEV市場に本格参入する方針を掲げた。そこに示されたのは、培ってきたテレビやスマートフォンなどの技術を生かし、「動くエンタメ空間」としての自動車であり、これに「リカーリング」(継続的に収益を生み出すビジネス)のサービスを載せて稼ぐビジネスモデルを志向している。
ただし、自前で製造するのは容易でなく、量産・販売できる事業パートナーが必要だ。試作車の生産は、オーストリアの自動車受託製造大手に任せたが、量産して広く市場で販売するには、アフターサービスを含めたノウハウが欠かせず、ホンダに白羽の矢を立てたわけだ。
こうした狙いがはっきりした今回の提携は、ソニーにとってはメリットが大きいとの見方が多い。
一方のホンダは2021年3月、一定条件の下で前方を見ずにハンドルから手を離したまま走れる自動運転「レベル3」の搭載車を世界で初めて市販。同年4月には2040年に世界で販売する新車をすべてEVか燃料電池車(FCV)にする方針を打ち出し、日本メーカーとしていち早く「脱エンジン」を明確にしている。
そのホンダの今回の提携の狙いは「新しい面白い価値をつくる」(三部社長)こと。そのため、ソニーとのあいだで「化学反応」を起こそうというが、いかにも抽象的な表現だ。
もちろん、共同開発するEVの生産を担うことで工場の稼働率が上がるなど直接的なメリットはあるが、三部社長は提携による短期的な収益は「そこまで期待していない」と述べた。
そう語る三部社長は、率直に危機感も露わにしている。
「電動化・知能化をはじめ革新的なテクノロジーや新たなモビリティ、モビリティサービスの担い手は、必ずしも従来の自動車メーカーではなく異業種のプレーヤーや新興企業に移行しているように見える」
EVというハードをつくるだけでは生き残れない。データを集め、コンテンツやサービスと一体化してネットワーク化することで新たな価値を生み出す「ソフト主導」の未来のモビリティを生み出すには、自動車メーカーの発想の枠を越えた提携が必要と判断したとみられる。
EVをめぐっては、急成長した米テスラを含む世界の自動車メーカーだけでなく、自動運転の開発に力を入れるグーグルや、いずれEVに参入するとみられるアップルなど、米IT大手も競争相手になる。ソニーとホンダの提携がどのような果実を生んでいくか。日本の自動車産業の未来も大きく左右する可能性がある。(ジャーナリスト 済田経夫)