ロシアのウクライナ侵攻、米連邦準備制度理事会(FRB)のタカ派姿勢に次いで、中国が「世界経済第3のリスク」に急浮上した。
オミクロン株感染急拡大中の中国では、「ゼロコロナ」政策のもと、ロックダウン(都市封鎖)が相次ぎ、経済への悪影響が懸念されているのだ。
エコノミストたちの分析を読み解くと――。
金融センター上海&ハイテクメッカ深センの封鎖が悪影響
報道によると、中国では3月15日現在、約3700万人がロックダウンの元に置かれているという。吉林省長春市、同省吉林市など5都市がさまざまなレベルで封鎖されて経済活動がストップしており、エッセンシャルワーカーと緊急サービスを除き、住民が地域を離れることを禁止されている。
長春市ではトヨタの現地工場が稼働ストップ。なかでも深刻な影響を世界経済に与えそうなのが、金融センター・上海市とハイテク産業集積地・深セン市の事実上のロックダウンだ。
こうした中国政府のなりふりかまわない「ゼロコロナ」戦略が世界経済に与える悪影響を、第一生命経済研究所主席エコノミストの西濵徹氏が、リポート「中国の『ゼロコロナ』戦略は明らかに破たんしつつある」(3月15日付)の中で、とくに上海市と深セン市のロックダウンをこう懸念する。
「これらの都市では工場が相次いで操業停止に追い込まれており、なかでも中国国内における2大金融センターであり、内外のサプライチェーンの核である上海と深センでの事実上のロックダウンは、中国経済に深刻な悪影響を与えることは避けられない。全人代では今年の経済成長率目標を『5.5%前後』と引き下げたものの(中略)足下の中国経済は再び躓(つまず)くことが懸念される」
中国国内での感染急拡大(=図表1参照)をうけて、中国株は2月以降、ウクライナ情勢悪化に加え、中国の対応をめぐる警戒感から外国人投資家を中心に調整圧力を強めていると、西濵氏は指摘するのだ=図表2参照。
また、西濵氏は1~2月の経済統計が企業マインドの動きと合わず、「違和感を禁じ得ない内容である」という。「仮に経済指標が実態と合わない『ゲタ』を履かせられていた状況であれば、誤った現状認識に基づいて政策運営が行われるリスクがあり(中略)、国際金融市場に混乱を招くリスクにも注意が必要である」とまで警告するのだった。
アップルなど米国ハイテク企業にも打撃
野村アセットマネジメントのシニア・ストラテジスト石黒英之氏も、リポート「中国のコロナ感染拡大が及ぼすリスクとは」(3月15日付)のなかで、とくに深セン市のロックダウンが中国経済、そして世界経済に多大な影響を与えると指摘した。
「仮に(深セン市の)封鎖が長引けば、同市が位置する広東省の経済に打撃を与えるとみられます。同省は中国全体のGDP(国内総生産)の11%(約2兆米ドル)を占めており、韓国と同等の経済規模を誇ります。同省の2021年の輸出額は中国全体の23%を占めていることから、世界経済への影響が警戒されます」
また、アメリカのIT大手にも大きな影響を与えるとした。
「台湾の鴻海精密工業も米アップルなどのスマートフォンを手掛ける深セン工場の稼働を一時停止しました」「中国の供給網の混乱が世界の企業に悪影響を及ぼすリスクがあります」「都市封鎖が長期化することとなれば、米アップルなど米国のハイテク企業の業績にも打撃を与える」として、「当面は中国のコロナ新規感染者数や都市封鎖の動向を慎重に見極める必要がありそうです」と結んだ。
「ゼロコロナ」は自国製ワクチンを信用しないから?
ところで、欧米や日本では「新型コロナとの共存」の動きが広がり、規制解除に舵を切るところが多いのに、なぜ中国は経済活動の妨げになるロックダウンといった厳しい政策をとるだろうか。
「中国政府が自国製のワクチンを信用していないのではないか」と疑問を投げかけるのは、野村総合研究所エグゼクティブ・エコノミストの木内登英氏だ。木内氏のリポート「中国ロックダウンの衝撃」(3月16日付)のなかで、人口の約9割がワクチン接種を済ませているが、80歳以上の接種完了者は約半分で、重症化しやすい高齢者のワクチン未接種者が多いといった事情があると指摘する。
また、木内氏は米ウォールストリート・ジャーナル紙の記事を引用しつつ、こう述べる。
「同紙は、中国では、オミクロン株に対する防御力が低いワクチンが接種されていることが、欧米諸国のようにコロナとの共存を模索するのではなく、強い規制を導入せざるを得ない理由になっていると指摘する」
中国で最も普及しているワクチンは、国内企業のシノファームとシノバック・バイオテックが開発したものだ。不活化ウイルスが使用されており、モデルナ、ファイザーのワクチンに比べ、「オミクロン株感染に対する効果が劣る」と考えられている。このため、「中国がゼロコロナ戦略を放棄してしまえば、死者の急増に直面する可能性が高い」というわけだ。
そして木内氏は、「中国のゼロコロナ政策、ロックダウンが長引けば、2022年上期の中国の成長率は前期比でほぼゼロ%成長となり、2022年年間の中国の成長率が4%台を割り込む可能性も出てきた」と結んでいる。
日本企業は巨大な「高齢ビジネス市場」に目を向けよう
ところで、「中国は超高齢化社会に直面している」という長期的な観点から中国経済の低迷と、日本経済が果たす役割に注目したのが、ニッセイ基礎研究所上席研究員の三尾幸吉郎氏だ。
三尾氏のリポート「中国も建国100周年を迎える頃には現役2人で高齢者を支える社会に!」(3月15日付)によると、少子化が急速に進む中国では、建国100周年(2049年)を迎える21世紀半ば(2050年)には生産年齢人口(15~64歳)が減り、現役世代2.3人で高齢者1人を支える状況になると指摘した=図表3、図表4参照。三尾氏はこう述べている。
「日本が1990年から30年間に経験した高齢化過程を、中国はこれから30年間で経験することになる」
現在、中国政府は社会全体で高齢化に対応する枠組み作りを目指し、「国家高齢者事業発展・高齢者介護サービス体系計画」の策定に躍起だ。また、「シルバー経済」の発展にも全力を挙げている。そこで、三尾氏はこう提案するのだった。
「日本では、高齢者施設などの箱モノや介護ロボットなどの研究開発が進んでいるのに加えて、ソーシャルワーカーの育成だけでなく高齢者向けの健康・娯楽などのサービスもすでに充実してきている」「日本で成功したモノ、サービス、ビジネスモデルは中国でも役立つ」として、「中国政府が重点をおく分野には補助金・税制優遇などの施策やサポートを得られることが多いだけに、日本企業にとってチャンスと言える」と結んだ。
これからは、目の前に広がっている巨大な「高齢ビジネス市場」に目を向けようというわけだ。
(福田和郎)