撤退判断が遅れ、批判にさらされた企業も
その泥沼にはまったのが、「ユニクロ」を展開するファーストリテイリングだ。同社は2010年にロシアに1号店を出店して以来、同国内に50店舗を展開。欧州各国と比比較しても「稼ぎ頭」となっていた。
欧米企業の撤退が相次ぐ中でも、同社はロシア事業の継続を表明。柳井正会長兼社長は3月7日付の日本経済新聞で「衣服は生活の必需品。ロシアの人々も同様に生活する権利がある」などと述べていた。
しかし、ロシアがウクライナでの攻撃を激化させる中、こうした態度は国内外の消費者の反発を招いた。10日、ロシア事業の一時停止を発表したがSNS上では「ロシアの人々の権利はどうなった」と皮肉られる結果となった。追い詰められての「遅れた撤退」といえそうだ。
ユニクロだけではない。海外でも石油大手シェルや、ドイツ銀行などがロシア事業の撤退判断が遅れたことが強い批判にさらされた。産業界からは「ロシアで事業を継続すること自体が企業にとって大きなリスクになっている」との声があがる。
ロシアから外資系企業の撤退が相次げば、ロシアの消費者の不満は高まり、失業率の増加など社会不安も招く恐れがある。批判の矛先は当局に向かいかねない。そんな事態を懸念し、苛立ちを強めるプーチン政権は、ロシア事業の停止や撤退を決めた外資系企業の資産を差し押さえ、ロシア寄りの経営者に譲渡する方針を示すなど、撤退の流れを止めようと必死だ。
しかし、一連の強権的な姿勢がかえってロシアのカントリーリスクを意識させ、外資系企業をさらに遠ざける悪循環を生んでいる。
ウクライナ侵攻という「悪手」を選んだプーチン大統領だが、外資系企業のつなぎ止めでも失策を続けていると言っていいだろう。
(ジャーナリスト 白井俊郎)