ウクライナ危機でなぜ「脱炭素」が加速するのか?
「週刊エコノミスト」(2022年3月22日号)は、ウクライナ危機で注目されている「グリーン素材&技術」を特集している。ウクライナ危機がなぜ「脱炭素」を加速させるのか――。
国際エネルギー機関(IEA)は3月3日、天然ガス危機に直面した欧州に10の提言をした。それによると、調達先をロシア以外に切り替える。家庭での設定温度を1度下げる。これらに加えて、太陽光と風力発電事業の促進や、バイオ由来燃料や原子力発電の活用などを挙げていた。
こうした脱炭素関連提言の多くには、IEAが昨年発表した報告書に盛り込まれた要素がかかわっている。なかでも、水素発電とCO2の回収・処分は、インパクトの大きい技術革新だ。今後、水素、アンモニア、CO2処分が一体となる巨大経済圏の形成が予想される。
化学品の原料をCO2から精製する研究が三菱ケミカルホールディングスなどで行われ、大規模実証設備をつくる段階だという。
また、CO2の回収、利用、貯留する必要があるのは、生産工程での温室効果ガス排出を「実質ゼロ」に近づける「ブルー水素」「ブルー・アンモニア」の製造に欠かせないからだ。
具体的に、すでに開発した油田・ガス田にCO2を入れ、その圧力で残った原油・天然ガスを回収する技術も開発されている。INPEX、三井物産の海外での取り組みを紹介している。
特集では、洋上風力発電、EVなどで需要爆発の「銅」、持続可能な航空燃料として注目される「SAF(持続可能な航空燃料)」などと、企業の取り組みをまとめている。
さらに、第2部「エネルギー革命の最前線」では、欧州の既存天然ガス網を水素網に根本的に変えることを紹介している。アフリカとの接続を目指しているが、太陽光、風力、水力などが豊富なアフリカで、グリーン水素製造能力を拡大する構想だ。
レポートを寄稿した丸田昭輝氏(テクノバ エネルギー研究部統括主査)によると、水素には6つの「カラー」があるという。
化石燃料由来で製造時にCO2を発生する「グレー水素」、再生エネルギー由来電力を用いた「グリーン水素」、化石燃料から製造するが、生産工程全体でのCO2排出量をゼロに近づけた「ブルー水素」、原発由来電力を用いた「ピンク水素」などだ。
ウクライナ危機に乗じて、原子力発電所の再稼働をめざす動きが自民党などにあるが、企業の最前線、そして世界は、はるか前を見据えて動いていることがわかった。
(渡辺淳悦)