ロシアのウクライナ侵攻を受け、日本の自動車メーカーがロシアでのビジネスを縮小する一方、ウクライナを支援する動きが広がっている。
トヨタ自動車は2022年3月9日、ロシアの侵攻を受けているウクライナ人を支援するため、赤十字社や国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)などに最大で250万ユーロ(約3億2000万円)を寄付すると発表した。
日産自動車も7日、250万ユーロをウクライナの人道支援に充てると発表。赤十字社とNPOに100万ユーロを寄付するほか、「日産ケア基金」を創設し、被害を受けた従業員や家族を支援するため、150万ユーロを拠出する。
マツダは10日、UNHCRに100万ユーロを寄付すると発表。ホンダは11日、人道支援として赤十字社に100万ユーロ、スズキも11日、UNHCRなどを通じて100万ユーロを寄付すると発表した。
日本の自動車メーカーの一連の動きは、周辺東欧諸国などで事業を展開していること、さらにそこで働くウクライナ人労働者がいることを踏まえたもので、人道支援はさらに広がりそうだ。
支援基金の設立、現地法人従業員による難民支援ボランティア
ウクライナの近隣諸国であるチェコやポーランドを中心に、トヨタの欧州事業体では1700人を超えるウクライナ人従業員が働く。トヨタでは
「紛争初期から、ウクライナから避難を余儀なくされている従業員の家族のために、移動手段、避難場所、医療サービスの利用などの各種支援を行ってきた」 と説明。また、ウクライナ人従業員と家族に宿泊や食事を含む移住支援を行う「トヨタ人道支援基金」を設立し、欧州全域のトヨタの従業員から寄付を募っているという。
日産は内田誠社長が「多くの人々や家族、そして私たち日産ファミリーのメンバーが苦しんでいることに心を痛めている。私たちは『日産ケア基金』を設立し、従業員とともに、この計り知れない人道的危機に24時間体制で対応している国際的な取り組みを支援していきたい」と表明した。
マツダはUNHCRに寄付するほか、「全世界のマツダグループ従業員から寄付を募り、マツダヨーロッパやマツダポーランドをはじめとする現地法人の従業員がボランティアで行っている欧州での難民支援などの草の根活動をサポートしていく」とコメントしている。
ホンダは「ウクライナおよびその周辺地域で、多くの方々が日常と異なる困難な状況に直面している現状を踏まえ、人道支援を行う」。スズキは、欧州のスズキグループ会社と寄付を行い、「この寄付金は、故郷から避難を余儀なくされている人々の保護や、安全を守る援助活動に活用する」という。
ロシアでの現地生産の対応は?
トヨタ、日産、マツダはロシアで現地生産しているが、生産中止などの対応に追われている。
トヨタは「3月4日から当面の間、サンクトペテルブルク工場の稼働と完成車の輸入を停止する」と表明。日産もすでにロシアへの輸出を停止しており、「サンクトペテルブルク工場の稼働も近日中に停止する予定」という。マツダは「現地の状況を注視し、マツダのビジネスに関わる全ての方々の安全を最優先に適切な対応を図っていく」としている。
気になるのはロシア政府の対応だ。欧米やロシアのメディアは10日、ウクライナへの軍事侵攻を受け、ロシア事業の停止や撤退を判断した外資系企業の資産をロシア政府が差し押さえる検討に入ったと報じた。(ジャーナリスト 済田経夫)